「あらトウコちゃん、もう外に出て大丈夫なの?」
見知らぬおばさんが親しげに話し掛けてきたので、研究所を探してキョロキョロしていた私はおばさんの顔を凝視してしまった。
「まあ、やだ!私のこと覚えてない?小さい頃沢山うちに遊びに来たでしょ?」
ケラケラと軽快に笑うおばさんは、私の肩をバシバシ叩きながらそう言った。
「あ、あはは。覚えてるに決まってるじゃないですか!ちょっとボーッとしてただけですよ!」
おばさんに合わせて此方も笑いながら、少し大袈裟に切り返す。内心は、やばい!トウコさんの知り合いなんだ…とか考えながら。
心拍数は上昇し続け、まったく知らない赤の他人に成り切ろうとするのは簡単なことではない。
「ふふ、冗談よ。…ところで貴女、なにか探してるのかしら?キョロキョロしてたけど」
研究所が何処にあるのか分からなくて!…なんて、勿論言えるわけないです。
「いえ、大丈夫ですよ!」
私がそう言うと、おばさんはすこし不思議そうな顔をしてから突然思い付いたように口を開いた。
「もしかして、また迷ってるのね!」
……また?
「トウコちゃんは昔から極度の方向音痴だからねぇ。さては研究所に行く道が分からない、とかでしょう!」
どうだ!とドヤ顔でそう言い切ったおばさんは、私の背中をぽんぽんと押した。
「迷子にならないようにおばさんが付いていってあげる!」
……すごい、私って、凄く運が良くないかな…とか思いながら、ありがとうございます!と元気にお礼を言う。
おばさんはニコニコしながら、トウコちゃんと一緒に歩けて嬉しいわ、と言った。
研究所までの道程は結構近くて、着くまでの間にほのぼのと会話を交わす。
「そういえばトウコちゃん、今まで何処にいたの?」
おばさんがふと思い出したようにこの話題を切り出した。
「あまり、覚えてないんです」
何を言えば良いか分からなかった私は、曖昧に微笑む。
「トウコちゃんがいなかった2年間、大変だったのよ」
おばさんはしみじみとそう言った。
「2年…!?そんなに…」
「もう、自分のことなんだからしっかりしなきゃ」
トウコが、神隠しのようなものにあったのでは…とは思っていたが、まさか2年も前に居なくなっていたとは思わなかった。
2年前にトウコはここから姿を消し、そして私と入れ代わった訳だから…つい最近に私の世界へ行ったことになるのだろうか…?
すると空白の2年間、一体トウコは何をしていたのだろうか…、
悶々と考えているうちに研究所に着いていたらしくおばさんは私の肩をぽんと叩いて、またねトウコちゃん、と言ってから家に帰っていった。


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