トウコ様のベッドをお借りして寝かせてもらった私は、慣れない環境のせいかいつもより早く起きていた…といっても、この世界にトリップしてきてから私は比較的早起きになった。
ベッドからゆっくり起き上がり、扉の近くにある等身大の鏡の前に立った。
因みにミュウはベッドの中で猫のように丸くなって未だ熟睡中です。
「私、本当に似てるのかな…」
鏡に映る自分の容姿は、トウコの寝巻を着ていること以外にはトリップ前となんら変わりはないように見える。自分の顔を睨み付けながら、私は思考を巡らせる。
昨晩ミュウから聞いたように本当にトウコが私の世界に逆トリップしている…となると、私が向こうに還り、トウコが此方に戻ってくるそれまでは私がトウコのフリをするしかない…ということになる。
まさか、自分の顔のことでここまで不思議なことが起こるとは思いもしなかった。
今のところ幼なじみのベルとチェレンが私をトウコだと思い込んでいて、それはトウコのお母さんまでも。アララギ博士だって、ジョーイさんだって。それほど私とトウコが瓜二つ…ドッペルゲンガーと言っても可笑しくない、ということ…?
そしてこれは、私とトウコが入れ替わってトリップしてしまったことと何か関係あるのだろうか。
難しい顔をしていると、ベッドの布団からごそごそと何かが動く音がした。
みゅーと、猫のわりには少し変わっているような…そんな鳴き声を漏らしながら、ミュウが起床した。
両手を口に当ててくあーっと大きな欠伸をしてから、寝呆け眼でするりとふとんから抜け出した。
そして頼りないくらいにふらふらしながら宙に浮かぶミュウは私の目の前まで移動してぱちくりと瞬きをした。
「お、はよう…」
一体何だろう。内心ドキドキしながらやっとそれだけ口にした私は、ドキドキしながらミュウの反応を待つ。
《………、》
反応は、無し。ただ、もう一度欠伸をしたミュウは、私の前から再びふらふら移動し、ついには扉を開けて部屋から出た。
「は……」
ああ、無視ですか、そうですか。
暫くつっ立っていた私だったが、ハッと気付いた。

ミュウって、トウコのお母さんに見られても良いの!!?

恐らくリビングに向かったミュウを追って、バタバタと慌てて階段を駆け降りた。
リビングには、既にトウコのお母さんが清潔なエプロンを身に纏ってキッチンに立っていた。
ミュウは、いない。
「あら、おはよう。いつもより早いのね」
清々しい面持ちでそう言ったトウコのお母さんは、私の切羽詰まった顔を見て首を傾げた。
「あの、ポケモン見ました…」
いけない、今トウコになってる……のに、敬語使っちゃ駄目じゃん…!
「…、見た?」
明らかに不自然に言い直したが、トウコのお母さんは特に気にする様子もなくフライパンを温めながら「さっきマメパトが出ていったわよ」と教えてくれた。
あ、きちんと姿変えたんだ…。
ほっと気がゆるんだ私は、部屋に戻ろうと静かに踵を返した。
「朝食までに着替えなさいねー」
トウコのお母さんが私の背中に呼び掛けた。



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