「つばき…?」
円堂君は何だか状況が理解できていないみたい、私の名前を小さく呟いてからポカンと見上げただけで危機感なんてものはまるっきり無さそう…というか、無い。私はそれを可愛いなぁとか無防備だなぁとか何とか思いながら上辺だけの微笑みを浮かべるだけで、この体勢を変えるつもりはまったく無い。そんな飢えた獣のような私を見て円堂君はほんのりと頬を赤くしたが、やっぱりよく分からないようで頭上にハテナ。いくら初な円堂君でも首筋にチューやキスマークの一つ二つ付ければ貞操の危機を察するだろうという結論に至って、早速顔を近付ける。
つまり私は今、とある乙女の事情で盛ってしまい円堂君に欲情し覆い被さっているところなのですが純粋な彼はそれが如何に危険なことなのか気付いてないのです。
「ちょっ、つばき!な、何する気なんだよ…!」
耳元まで顔を傾けて持っていったとこで取り敢えず身の危険は感じとったらしい円堂君は若干上ずった声で私に問い掛けた。相当緊張しているみたいで肩に変に力が入っているし、手も思いっきり固く拳を作ってユニフォームの裾を掴んでいた。何だか面白くなってフーッと息を吹き掛けると、円堂君はバッと面白いくらいに体を捩って避けようとした。無理矢理横を向いて辛うじて逸らされた耳元は真っ赤になっていて、それが可愛くてそれでいて挑発的というか何というか…
曝け出された首筋は健康的な色に日焼けしていて、美味しそうな感じ食べちゃいたい。練習前で汗臭くないそこは寧ろ良い匂いがする。まるで追い討ちをかけるようにそこに唇を寄せてキスをすると円堂君は擽ったそうに手で首を庇おうとするのだが、あまり力が入ってなかったので私のような非力な奴でも難なく押しつけることができる。
円堂君が本気を出して暴れれば私なんて吹き飛ばされて壁に叩きつけられてジ・エンドになるのは目に見えているから、実際ここまで好き勝手出来ているのは多分万更じゃない…んじゃ、ないかなぁなんて。
「く、くすぐった…い、って!」ははは、と堪えきれない笑いを零す円堂君は嫌々と言うように軽く首を左右に振ったが、その否定の仕方がやっぱり可愛いので止めてあげる気がまったく起こらない。何度もキスを繰り返してから好奇心でベロリと一舐めか二舐めしてみると、円堂君はひぁっ、とか何とか声にならない叫び声を上げた後、遂に我慢の限界なのかなんだか涙声で止めてくれと懇願しだした。流石に可哀想になってきた私はちょっと不満(だって全然してないし、ムラムラ解消されてない)だったけれどちょっと渋った後に大人しく引き下がる事にした。まだキスマーク付けてないし…。
よっこらせ、なんてお婆ちゃんみたいな掛け声で私が体を浮かせたのと、視界がグルンと回ったのは同時だった。
気が付くと私は惚けた顔して下にいて、上にいるのは悪戯な笑みを浮かべた円堂君で、あー私は彼の可笑しなスイッチをオンしてしまったのだと察するのに時間はかからなかった。まだ顔が赤いし涙目だけど、してやったり顔で私を見下ろす彼が次はどうしようもなく格好よくてきゅんとした。
これは多分私が貞操の危機という奴なんだな、なんて冷静に考えている中近づいてくる円堂君の顔。

「此処に居たのか円堂、そろそろれんしゅ、う…ぅあ!悪い!」
がちゃん!ばたん!
水色の髪のあの子が、私と円堂君を見て顔を真っ赤にしてまじ高速で走り去っていった。あれが多分、真の疾風ダッシュだ。きっと風丸君今なら本物の宇宙人にだって勝てると思うよ。









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