うちの学校はエアコンが全教室完備なのにも関わらず、ここぞという時に作動してくれない。そしてこの日は、此処は南極ですよ、とでも言うかのように寒さがピークに達していた。その上先生が、"冬だからといって窓を閉めたままでは空気が悪くなるから"とか何とかほざきやがって、全開。ビュオーと勢い良く吹き付ける北風がカーテンを激しく揺らした。因みに、誰もそれを何とかしようとしない。
あと少しで霜焼けになりそうなほどカサカサの両手を擦り合わせながら、なんとか暖まろうと必死だ。ハーッと息を吹き掛けて、強ばった手がまた少しでも動いてくれるように願いながら再び擦り合わせる。
先生が、授業のポイントを分かりやすく説明してくれているが、ノートにメモを取ろうと思ってもなかなかペンが握りにくい。震えるペン先で字を殴り書きしながらクラスの誰かがせめて窓を閉めてくれることを願う。私の席は窓から遠い。
ちらりと横を伺うと、変わった髪色をした彼はやはり寒いのかズボンのポケットに手を入れてごそごそしていた。いつも結われている長い髪は、寒さ防止のためか解かれている。風でフワリと揺れるが、首まわりを確りガードしていたので私より寒くなさそう。私は、ショートなのだ。
「いーな。カイロ持ってるんでしょ」
ごそごそと動くポケットに入れられた手を見ながら言うと、Nはちらりと少し私を見た。
「少しは温かい?」
「まあね。」
はーっと吐き出された息は白く靄になり、暫くして空気に溶けて直ぐに見えなくなった。
「ねえ、少しだけでいいからお願い貸して。」
寒くて仕方がない。強請るようにそう言うが、Nは貸してくれなさそうで露骨に嫌そうにした。
「僕が寒くなるじゃないか」
そりゃそうだ。
「じゃあさ、カイロじゃなくても良いから手貸して」
「冷える。」
「首。」
「余計冷える。」
あー最悪寒過ぎる、前の女子が不機嫌そうに呟いた。私だって不機嫌である。これ以上粘っても何も貸してくれなさそうなので渋々引き下がった。この野郎、ケチ!





放課後になって、気が付いた。あれ、私のマフラー何処行った?鞄をごそごそ漁っても探しても何処にも見当たらないのでいよいよ泣きたくなってきた。
この寒さのなか私にマフラー無しで帰れというのか畜生!
検討は付いている。多分…悪戯だと思う。女子の嫉妬は物凄く怖いんだよそして醜いんだ。まだそこまで酷いことをされていないのは私が全然相手にされていないからだと思う。ほんとあれだよ、超素っ気ない。たかがカイロくらい貸してくれればいいのに、だがされどカイロ…なのか。でも、自惚れでもいい。多分女子の中では私は結構受け答えをしてもらっている方だと思う。
彼女にでもなればきっと私は明日の日の出を拝むことが出来なくなるほどボコられるであろう、確実に。隣で帰り支度を済ませたNが鞄と肩に掛けて、首に真っ白で暖かそうなマフラーを巻いているのを横目で見ながらそう思った。
「じゃあね、N。また明日」
「ああ、うん。」



おー、寒い。ふーふー手に息を吹き掛けながらノロノロと足を進めていた。寒いので走ると向かい風が辛いんだけどかと言って歩くのも変わらないぐらい寒い、よってどちらも意味無。
あともう少しで駅の改札口、というところで声を掛けられた。
「マフラーは?」
Nだった。第一声がそれかとか思ったけど、痛いところをいきなりピンポイントでド突いて来たので口籠もってしまった。まさか、"あなたのことが好きな女の子にしてやられましたテヘッ☆"なんて言えない。
「あー、マフラー、ねぇ。玄関に置いてきた」
それっぽく言ったのに、嘘だと知っているみたいにNは怪訝な表情を浮かべた。
「朝は付けてたじゃないか」
みたい、じゃなくて知っていたらしい。マフラー付けてるとか付けてないとか、きちんと見てくれてたんだと思うと嬉しくて頬が緩みそうになった。やばいやばい
「あー、付けてたっけ。じゃあ多分鞄の中かな」
「嘘だろう。」
何で悉くバレてるのか分からなくて目をパチパチとさせながらNを見たら、溜め息を吐かれた。
そしてするすると暖かそうなマフラーを外したNは、次はするすると私の首に素早くマフラーを巻いていく。えっ、ちょっ、何!?
かぁぁっと顔が熱くなって、あまりにびっくりし過ぎて頭が痛くなってきた。近い、Nが近い。色っぽい吐息が、凄く近い!

「ほら、」
スッと離れたNが薄く笑みを浮かべた。そっと首もとに手をやると、やっぱり確り巻かれているフワフワの、
「マフラー、あるだけで全然違うからね」
じゃあ、なんて言ってNは私の横を通りすぎて改札口を通過していった。ピッ、と定期認証の電子音が聞こえた。
頬が熱いよ、頬が。先程体の芯から冷えきっていたのがまるで嘘のように、今は冷たい風も程よい熱冷ましにちょうど良い。ふんわり香るフローラルな匂いと、Nが付けていたせいで生暖かいマフラー。

どうしよう、次は暑すぎる。



熱に浮かされる、冬。




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