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明星1
※下品で道徳欠如な執行官シリーズです。
いつも以上に狡噛さんと何も起きません。
「だからぁ、それ私じゃ無いって言ってるじゃ無いですか」
「じゃあなんで入室履歴に俺とお前の名前しかないんだよ」
「そんなの知りませんーシステムイカれたんじゃないんですか?」
この問答が俺の部屋で始まって早10分。
確信を持って名前ちゃんを責め立てる狡ちゃんは鬼の形相で非常に恐ろしいが、彼女にとってはいつものことのようでどこ吹く風だ。言い合う2人を横目に、俺は慣れた手つきで野菜を洗い、繊維を切るように牛肉を細切りにする。準備が整ったらフライパンを用意。2人の言い合いをBGMに、料理に勤しんでいた。
公安局刑事課一係執行官、狡噛慎也と苗字名前は所謂俺のセンパイ達で、俺が配属された時点で2人はこういう間柄だった。この2人、事件が起きれば相性ぴったりなのだが、オフになると口喧嘩は通常運転。胸倉を掴むまで(どちらが、とは言わない)がデフォである。今日は珍しく一係の執行官全員が夜勤無しだったので俺の部屋で飲み会を開催しようとなり、非番の俺と先生、仕事を終えた狡ちゃんと名前ちゃんで、まだ現場から戻らないとっつぁんとクニっちを待っていた訳だが。飲み会が始まるよりも早く世界一不毛な取っ組み合いが開催されそうな勢いだった。
「名前。流石に今回はあんたが悪いわ」
「志恩さんまで!ひどい!」
「だってトレーニングルーム慎也君と名前しか使ってなかったんでしょ?じゃあ明らかにあんたじゃない。慎也君の煙草持ってったの」
「…持ってったんじゃないもん借りただけだもん」
「じゃあ借りたよありがと、って可愛く言っときなさいな。慎也君も許してくれるわよ」
「言っとくが、借りたってのは返す気のある奴の台詞だからな。お前そうやって一回でも返したことあったか?」
「うるさいなあ、狡噛さんは細かすぎるの。そんな繊細さんやってるから執行官落ちなんてしちゃうのよ」
三色のピーマンと筍、にんにくを少々。それから牛肉をフライパンに入れ手早く炒める。段々と青椒肉絲の美味そうな香りが部屋に溢れて自然と腹が鳴った。今日は中華メインのラインナップだ。
「あーあー。それは私達的に地雷じゃない?」
「よし、表出ろ」
「すぐ暴力に訴えるの悪い癖ですよ!」
「うるさいクソガキ」
「痛いのは嫌!チューしてあげるから許してください!」
先日廃棄区画の骨董品店で仕入れた青花の陶磁器に出来上がった料理を盛り付けると、店で出てくるようなものと遜色無い出来栄え。丁度のタイミングでとっつぁんからも『もうすぐ戻る』と連絡が入った。
「あっ、ちょっと、やめ。んっ…」
「変な声出すな!」
出来上がった料理をテーブルに運びながら、ワザとらしい嬌声に思わず名前ちゃんの方を見てしまった自分が心底恨めしい。そんな俺を見て先生はお腹抱えて笑ってるし。あ、狡ちゃんがキレた。
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