露見
「聞いたぞグラン!梨葉が脱走したそうだな!」
「テメェ……!!梨葉があんなになるまで追い詰めやがって!!」
騒がしい音を立てながら、ドアを蹴破る勢いでガゼルとバーンがオレの部屋に押し入ってきた。
二人とも鬼の形相とでも言えばいいのかな、すごい顔でオレを睨み付けていた。
この様子じゃ相当怒っている。
「二人とも、少しは落ち着いたらどうだい?」
「!……ッテメェふざけんな!!」
ベッドの縁に腰を下ろして半ば呆れながら二人に言うと、どうやらバーンの逆鱗に触れたらしい。
久しぶりに着た私服の胸ぐらを掴まれた。
うわぁ、よくある陳腐な不良系のドラマみたいだ。
「知ってたんだろ!?梨葉の気持ちを!あいつが毎日血ヘド吐くくらい努力してたのも知ってたんだろ!?」
「もちろん知ってたさ。ルシカはオレのことを盲目的に愛していたし、ルシカは毎日遅くまでグラウンドに残って練習していた。オレの為だよね?」
平然と応えてみせると、バーンの金色の目が先ほどよりも更につり上がった。
この至近距離で見ているとはっきり分かる。
バーン、怖いくらい瞳孔が開いてるよ。
「ならっ……何で!何でアイツに優しくしてやらなかったんだよ!何で突き放すような態度ばっかとってたんだよ!テメェのせいで梨葉がどれだけ苦しんだと思ってんだ!」
ルシカルシカって……二人とも、あの役立たずのどこをそんなに買ってるんだろう。
目の前でキレてるバーンはもちろんさっきから横で傍観してるガゼルもずっと冷たい視線をオレに投げ掛け続けている。
ガゼルもバーンもどうしてルシカをここまで気にかけてるんだろう。
オレには分からないし、分かりたくもないね。
「あのね……二人ともルシカが脱走したのを気に掛けてるみたいだけどはっきり言ってオレ達ガイアにとってはどうでもいいことなんだ。レギュラーが抜けたわけでもない、彼女はただの補欠だし。オレだってウルビダやクィールが脱走したんなら死ぬ気で探すさ。それにね、寧ろルシカが抜けてくれた方がチームの士気も上がってくれ……ッ!!」
「ッざっけんな!テメェだけじゃなくてガイアの連中までルシカを足手まとい扱いしてたのかよ!」
ッ……バーン、オレの首、絞まってるんだけど……!
全く分からないな、ルシカの為にここまで怒ってるっていうのかい?
下らないな、あのルシカの為に?
はっ……お笑い草だ。
「やめろ!バーン!コイツの首を絞めれば梨葉が帰ってくるのか!」
「っ、はぁ…」
ありがとうガゼル、バーンを止めてくれて。
そうじゃなきゃオレ、今頃バーンに殺されてたよ。
はは、笑えないな。
「ともかく!私とバーンはルシカを探して連れ帰る!」
「あぁ、オレも一応、ルシカのことは探すよ?父さんから連れて帰ってこいって言われてるからね」
もうこれ以上、二人の神経を逆撫でするのは得策ではないだろうと判断して、それ以上は言わなかった。
―父さんが、連れ帰った暁には相当厳しい処罰を下すことは。
「オレかガゼルが梨葉を見つけたら本気でプロミネンスかダイヤモンドダストに引き抜くからな!」
「今までも早くそうするべきだった……これ以上、梨葉をガイアに置いておくわけにはいかない!!」
わぁ、二人とも目がマジだ。
プロミネンスかダイヤモンドダストに引き抜く?
オレは別にそれでもいいけど、ルシカなんか入れたって使い物にならないのにね。
しかも言動がふわふわしててヘラヘラ笑ってるからイラつくし。
「別にいいけど、プロミネンスもダイヤモンドダストもルシカみたいな役立たずを入れなきゃいけないくらい困ってるの?」
にこりと、よく周りから人好きすると評価される笑みを浮かべながら言うと、
「ッ……!」
左頬に鋭い痛み。
骨のぶつかる感覚。
気がつけばガゼルに殴られていた。
「まだ貴様は気がつかないのか!」
「気がつかない?」
「梨葉は今までずっとMFだったろうが!梨葉をFWで使うなんざ何考えてんだよ!あいつには司令塔を任せるべきだろうが!」
「バーン!もういい…グランでは、一生梨葉を上手く使ってやることなどできないさ…」
梨葉は、使い方を間違えなければいい選手になるんだがな、と。
それだけ残して、二人は去っていった。
1人に戻った部屋で左頬に触れる。
「痛……」
鈍い痛みがオレを襲った。
はは、人に殴られたのなんて初めてだよ。
父さんにも殴られたことないのに。
……なんてね。
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