慟哭

「……」

駅前の賑わいを見せる街に、この世の終わりを見たかのような顔をした私が1人。
どうして私はあんなにグラン樣に嫌われているんだろう。
私がサッカーが下手だから?
へらへら笑ってるのがうざいから?

「……っ」

どんなに練習をしてもみんなに追いつけない。
グラン樣みたいにシュートを決められない。
いつまでも経っても必殺技ができない。
努力が足りない?
それとも才能がない?
……両方、かな。
声を上げて泣いてしまいたい。
何もかも壊してしまいたい。
この街も、研究所も、私自信も、全て壊れてなくなってしまえばいい。
嫌だよ、宇宙人になんてなりたくない。
みんなで楽しくサッカーしたい。
お父さんの考えてること、私には分からないよ。
役立たずの私なんて要らない。
死んでしまいたい。
思わずしゃがみ込んでしまった。
涙が出てきそうだ。
何も見たくない、聞きたくない。
死にたい、






「……梨葉?」


「……!」


久しぶりに呼ばれた名前、それに、
深く暗い思考の底に堕ちていた私を引き上げる優しいハスキーボイス。
ふわりと薫る良い匂い。
柑橘系の、優しくてどこか甘酸っぱい懐かしい匂い。優しい香りにあてられてくらくらした。


「瞳子、姉さん……」


姉さん、瞳子姉さん。


「なん、で……ここに、」


途切れ途切れにこう問えば、姉さんは昔のように優しく微笑んでしゃがみ込んだ私に手を貸してくれる。


「貴女こそ、こんな所で何をしているの?」


「……っ!」


姉さんが、あまりにも優しい声で問いかけるから、


「姉さ…!」


「!……梨葉?」


あまりにも優しく抱き止めてくれるから、


「っ…うぅ…っわぁぁぁあん!」


遂に泣いてしまった。


「どうしたの?梨葉、何が悲しいの?」


「っ姉さん、姉さん……!姉さん!わぁぁぁあ!」


うわごとのように姉さんの名前を呼び続けて、狂ったみたいに泣き続けた。
身体中の水分が無くなっちゃうんじゃないかってくらいに泣いて、喚いて、姉さんに縋った。どうしていいのか、わからなくて。
理性の制止も利かない。
ただ、昔と同じように接してくれる人の存在が嬉しかった。


「落ち着いた?」


「うん……ありがとう、ごめんね、姉さん…。」


稲妻町の綺麗なマンションの三階。
ここが姉さんのお家らしい。
あの後、泣き止まない私を、姉さんはここまで連れてきてくれた。
私が泣き止むまで、優しく背中をさすってくれていた。


「目、真っ赤に腫れてるわよ」


ちゃんと冷やさなくちゃ、あなた女の子なんだから
と、姉さんは冷蔵庫から氷嚢を持ってきてくれた。
それをゆっくり目に当てる。
冷たくて、ぴりぴりするけど気持ちよかった。


「姉さん、もう私……私は……っ」


「……まさか、お父さん…!」


明らかに姉さんの表情が変わった。どこか憎々しげな、鋭い目つき。
そういえば、お父さんの計画に一番に反対したのは姉さんだったし、姉さんはすぐに家から出ていってしまった。


「みんな変わった…怖くなったし、それに変な階級もできちゃって、私は……グラン樣、っヒロトに、嫌われちゃって、」


「ヒロトが?梨葉を?」


そんなまさか、と姉さんが眉根を寄せる。
それに苦笑して応えた。姉さんが知ってるヒロトは、もう居ないのだ


「みんな変わっちゃったんだよ」


姉さんが淹れてくれた紅茶に手を伸ばす。
姉さんらしい、涼やかな水色のティーカップに入ったミントティーは、温かく私の中に沁みてきて、散った欠片の残骸を洗い流してくれる。
すっきりした後味がおいしい。


「必要なのは力……」


そう言うと、姉さんは黙ってしまった。
私もそれ以上、何も言えない。
チクタク、チクタク。
時計の針の音だけが大きく響く。


「……梨葉、」


もう時計の針が何周しただろうか、それくらいに時間が経ったとき。
姉さんが遂に口を開いた。
その瞳は真っ直ぐに私を見ている。


「私と、ここで暮らしてみない?」


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