期待
「わぁ……!」
綺麗な澄みきったコバルトブルーに包まれて、穏やかな波に揺られて船は緩やかに進む。
初めて見た海に、興奮が隠しきれなかった。
私の語彙力が乏しいせいで巧く言えないけど、すごく素敵な場所。
「沖縄の海はやっぱり綺麗ね。」
「姉さん。」
私の隣の柵にもたれかかった姉さんも心なしか嬉しそう。
いつもと変わらない優しい瞳をして私の髪を撫でてくれる。
幸せだ、と改めて感じた。
姉さんが私を迎えに来てくれた日、あれから私はまさに着の身着のまま、姉さんと共にイナズマキャラバンに合流すべく沖縄を目指していた。
雷門のみんなは沖縄で「炎のストライカー」と呼ばれる選手を探しているらしい。
どうもその人が、以前離脱した豪炎寺くんなんじゃないかって話なんだそうだ。
「なんか緊張してきた。」
今まで憧れていた雷門のメンバーの中に私は入っていけるのだろうか?
私は今まで試合中継を見ていたから雷門のメンバーのことは何となく知っている。
けれど、雷門のみんなからすれば私は完全なる第三者なわけであって、しかも大した実力があるわけでもないわけで、だから……
「受け入れてくれるかなぁ……」
はぁ、とコバルトブルーにため息を落とした。
すると姉さんは「あら、」と意外そうな瞳で私へ視線を向ける。
「あなたそんな事を気にしていたの?」
「そんな事って……」
「大丈夫よ。今まで何度か新メンバーの補充はやってきたけど、仲間割れしたことなんてほとんど無いわ。」
「それはそうだけど……」
「それに、雷門には円堂くんがいるから。」
円堂守。
雷門のキャプテンでGK。
中継で何度も見たから優しい人なんだっていうのは知っているし、人望のある人なんだっていうのも理解できる。
だけど万が一その円堂くんに拒絶でもされたら私は……!
「あああああ…」
「(相変わらずメンタルの弱い子ね……)まぁ、選手の女の子もマネージャーの女の子たちもみんな優しい子よ。彼女達は同性が増えれば喜ぶと思うわ。」
「!」
財前塔子ちゃんと浦部リカちゃん。
それに木野秋ちゃんと音無春奈ちゃんと雷門夏未ちゃん。
私は密かに雷門の女の子たちに憧れていた。
お友達になりたいなんて身の程知らずにもほどがある願望を抱いてすらいた。
特に……
「木野さん……」
木野さんの目立たないけれど適切なマネジメントをこなす姿勢はずっと尊敬していた。
テレビ画面で見る彼女はいつもくるくると表情を帰る。
試合を見ているときは嬉しそうだったり、不安そうだったり。
それでも常に選手には笑顔を向ける。
すごく素敵な子だ。
音無さんは場を盛り上げる楽しい子みたいだし、雷門さんは落ち着いた気品のある人だし、財前さんと浦部さんと一緒にプレーしてみたいって思うし。
「こう考えると、楽しみかもしれない。」
ぽつりと誰に言うでもなく呟くと、姉さんはまた私の頭を撫でてくれた。
夏風が静かに凪いで私の髪を撫でた。
先に綺麗な島が見える。船は徐々に速度を落とし始めた。
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