雨雲

エイリア学園脱走から半年と少し―私は、中学2年生の夏を迎えた。


変わらず、ベッタベタの百合漫画に出てきそうな名前の学校、「聖隷マリア女学院」に在籍したままで、やはり変わらず、女子サッカー部で司令塔を務めている。

少しだけ変わったのは、遂に一人暮らしが始まったこと。
先日、姉さんは雷門イレブンを率いてエイリア学園を倒すべく家を出ていったのだ。



『梨葉、貴女にイナズマキャラバンへの参加を要請します。』


あの時の姉さんの真剣な瞳。
あの視線を反らすことなど、できなかった。


『…ごめん、なさい…!私は、参加できません』


それでも、自分の気持ちは精一杯伝えたつもりだ。
姉さんもみなまで言わずとも理解してくれたようで、…そう、と一言呟くと、それ以上は私に不参加の理由を追求してこなかった。


私では、あまりにも役不足だ。

姉さんだってきっと、私を選手として使う気などさらさら無かったのだろう。
私は補欠とはいえ、元ガイアのメンバーだけあって、エイリア学園の内部情報にはある程度は通じている。
だからきっと、戦術オペレーターのつもりで私をチームに置くつもりだったのだと思う。


だけど……

(ごめんね、姉さん)


実をいうと、私はやはり補欠だけあって試合に出たことが無かったし、ガイアのレギュラーメンバーの誰かと連係したことも無い。
平たく言えば、ガイアの中では完全にぼっち状態だったのだ。
それに加え、ダイヤモンドダストやプロミネンスのメンバーがみんな私と仲良くしてくれたので、どうにも自由時間や自主練中は杏や愛やクララや由紀と一緒にいがちだった。
だからといって同じチームではないからチームの内部情報なんて知らない。(知っていたとしても私と仲良くしてくれたみんなを売るようなマネはできなかっただろう……例え、相手が姉さんであっても)


つまるところ、私は役に立てない上に仲良くしてくれたダイヤモンドダストやプロミネンスのみんなを相手にして戦う勇気のない弱虫なのだ。
だから、私は姉さんと一緒には行けなかった。
行くべきではなかった。
姉さんの要請を受け入れてはいけなかった。



(だけど、心のどこかでは私も戦いたいと望んでいるのも事実。)




「梨葉ちゃーん、一緒に帰りませんか?」


「あ、はーい!すぐに行くから正門で待ってて!」



部活後、同じサッカー部の友人に声を掛けられたが、私はまだ帰り支度が整っていなかったので先に正門へ行ってもらうことにし、私は部誌を書いて、制汗スプレーをひと吹きして着替えてから部室を出た。
雨が降ると予報にあった通り、空はどんよりと曇っていた。








「あれ……?」



いくら親しい友人とはいえ、あんまり待たせすぎてはいけない。
早歩きで正門へ向かったつもりだったが、そこに彼女は居なかった。
というよりもそれ以前に、人っ子1人居なかった。
普段ならば部活帰りの生徒が溢れ返っているはずの、正門に。



「(なんか……あの時と同じ、嫌な感じ……)」



夏だというのに急激に気温が下がったように肌寒い。
思わず、自分の腕をさすった。




「(早く……誰か来て……!)」


あまりの辺りの雰囲気の不気味さに心細くなり、そんな事を願った時だった。





長らく聞いていなかった、艶のある彼の声が聞こえたのは。








「見つけたよ、ルシカ」




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