驚愕
「じゃあ、また明日。」
「うん、送ってくれてありがとう。また明日ね」
マンションの前で運転手付きのリムジンから下ろしてもらって、(本当にみんなお金持ち…!)エレベーターで部屋へ上がる。
確か、今日は姉さんはお仕事がお休みのはず。
この時間だし、部屋にいるかも。
そんなことを考えていると、エレベーターが止まって扉が開く。
姉さんの部屋はこの階の一番端の部屋だ。
「ただいまー」
部屋の扉に手をかけると、ガチャリと開いた。
鍵がかかってない。
やっぱり、姉さん居るんだ。
「姉さんってば鍵閉めなきゃー。不用心だよ?」
靴を脱いでリビングへ向かうと、ちらりと見えた姉さんの黒髪。
姉さんにしては珍しくテレビを見ているようで、顔は見えない。
「姉さん?」
あれれ、本当に珍しい。
姉さんが「おかえりなさい」の一言もなしにテレビに釘付けだなんて。
「なーに見てん、の……!!」
『……エイリア学園と名乗る少年、少女の集団が全国の中学校で破壊行為を続けており…』
テレビから流れるニュースキャスターの女の人の淡々とした声だけが静かに響く。
画面に写し出されたのは、よく見知った人たち。
くらり、とした。
突然のことに頭がついていかない。
そうか、だから授業が打ち切りになったのか。
彼らが、エイリア学園が…動き出したから。
「……梨葉」
「姉さんっ…!」
くるりと姉さんがこちらへ振り向いた。
冷静な姉さんも、さすがに顔が青ざめている。
そのどこか血色の悪い顔色が彼に似ていて、やけに胸が苦しい。
「今日…学校、終わって、あの、」
ダメだ、言葉がまとまらない。
頭の中が色んなものでごちゃごちゃで、一番必要なものが伝わらない。
「さっき連絡網が回ってきたわ……エイリア学園騒動を受けて、明日から当分の間は短縮授業だそうよ。」
『少年少女達は星の使徒と名乗っており……』
空気の読めないニュースはまだ続いている。
完全に他人事であるかのように記事を読み上げるニュースキャスターはすごく綺麗な人だったけど、この時ばかりは不快だった。
そして再び画面へ目をやると、破壊された校舎を背景に黄緑色が。
彼のことも、よく知っている。
人一倍努力家で、でもどこか少し泣き虫な、
「リュウジ……」
忘れていた、新しい学校に通いはじめてからの生活が幸せすぎて。
自分もエイリア学園に関係のある人間だなんて、完全に忘れていた。
ただ友達や、姉さんとの平和な毎日が幸せで、大切で。
エイリア学園だなんて自分の知ったことではないと、気づかない振りをしていた。
「ど、どうしよう……姉さん……」
あぁ情けない!
また私は姉さんにすがることしかできないの?
これじゃ、私……エイリア学園に居たときと何も変わってない!
弱いままの私、自分じゃ何もできない私、
そんなのもうやだよ!
「さっき雷門の響木監督に連絡をしたの、」
「雷門の監督……?」
響木監督、うん知ってる。
だって昼休みにサッカー部のみんなとワンセグでFFの決勝戦見たもん。
あのラーメン屋みたいな恰好のおじさんだ。
「私は、雷門イレブンを率いてエイリア学園を倒すとになったわ」
「エイリア学園を、倒す……?」
またもや突然のことに、上手く頭が回らなかった。
姉さんが雷門イレブンを率いてエイリア学園を倒す、
倒すってことは、みんなと敵対するってことで……つまり、
「(今までみたいに傍観者のままではいられない……姉さんは、遂にみんなと戦う決意をしたんだ)」
やっぱり姉さんは強い。
エイリア学園のニュースが流れてからそう何時間も経ってないのに、もう腹をくくったんだ。
唖然としている私には構わず、姉さんはなおも強い語調で話を続ける。
「キャラバンで全国を回って、メンバーをスカウトしながらエイリア学園と戦うのよ。地上最強のチームを作るためにね。」
「地上最強の、チーム…」
すごくスケールのデカイ話になってきた。
地上最強…確かにそれぐらいじゃなきゃ、ガイアには、ヒロトには絶対に勝てない―
ダメだ、涙が出そう。
学園を脱走したときにはこんなことになるだなんて思わなかった。
ふと頭にヒロトが浮かんだ。
変わらずに私を冷たい瞳で見下ろしている。
無意識に、身体が震えた。
怖い、どうしようもなく怖いよ…!
「梨葉」
姉さんに名を呼ばれ、ゆっくりと顔を上げた。
きっと今の私は、とんでもなく情けない顔をしているに違いない。
しかし姉さんは、そんなことは気にも留めていないようだった。
やはり意志の強い瞳で私を真っ直ぐに見つめている。
そして、言った。
「梨葉、貴女にイナズマキャラバンへの参加を要請します。」
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