葛藤

私はただ守りたかっただけなのだ。





「ふぅ……やっと見つかったよ。なかなか手こずらされたけどね。」


「何の話だ。」


「何って、話したじゃないか、ウルビダ。ルシカが瞳子姉さんを頼って脱走したって。」



目の前の存在すらも腹立たしいこの男から、私は梨葉を守りたかっただけ、なのに。



「父さんにも少し手伝ってもらったんだけど、姉さんの現在の住居も職もルシカの通ってる学校も、全部調べがついた。仕方がないからオレが彼女を"迎えに"行く。その間チームは任せたよ。」



何故、こんなことになってしまったのだろうか。



カツカツと靴音を響かせて去ってゆくグランの背中を睨み付け、心の内で罵詈雑言を吐いたところで何も変わらない。
梨葉は居ない、もう私の傍には居ない。



梨葉をアイツから守りたかった、梨葉が傷つく様は見たくなかった。


何が原因かは私にも分からないが、アイツは変わった。
計画が始まってから急に梨葉への態度が豹変したのだ。


以前ならば相手が私や布美子であろうと晴矢や風介であろうと、誰かが梨葉と仲良くしただけで怒り狂うほどに梨葉を溺愛して、独占していたクセに、
なのに、なのに!



「一体…どういうつもりだ!!!」



ガン!
トン、トン、トン……




苛立ちに任せて蹴り上げたボールが壁に当たり、後は虚しく床を転がった。


梨葉の為、梨葉が傷つく前にグランへの恋心など捨てさせてしまえ、とグランが私を愛でる胸糞の悪い手を受け入れていたが、それで逆に梨葉が傷ついてしまうなんて。


どんな扱いを受けても、梨葉がグランを好きでいつづけるなんて思いもしなかったんだ。
奴の態度が露骨に変わって、私がグランに気があるように見せてしまえば、梨葉はすぐに以前と変わらず接してくれるガゼルやバーンを好きになるだろうと高をくくっていた。

……そうなれば、いいなと思っていた。
私の願望だった。
梨葉がグランの檻から出てくれば、私はもっと梨葉と一緒に過ごせると……そう信じていたんだ……




「梨葉……」



もう、彼女は私に笑顔を見せてはくれないだろう。




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