嘘吐き鏡と我儘王女

「ねぇヒロト、アイス食べたい。」

「そうだね、冷蔵庫に入ってるの取ってくるよ。」

「えー!冷蔵庫に入ってるのって風介が買ってきたやつだから全部ソーダじゃない!私チョコが食べたい。」

「そっか、じゃあ買ってくるよ。」


私はひどく我儘だ。
お日さま園の中にも、私の我儘に付き合えないだとかで、距離を取る人もいる。家族であるお日さま園のメンバーですらそうなんだから、学校で私に近寄る人間なんて1人もいない。

寂しいかどうかと聞かれれば、私も人の子だから寂しい、よ。


でも、それは私が望んだこと。
だからこれでいい、このままでいい。
私にはヒロトだけ居てくれればいい。



「ねぇ、ヒロト、」

「何だい?」


財布を片手に上着を羽織ってコンビニへ行こうとしていたヒロトをベッドの上から呼び止める。
するとヒロトは、優しく微笑みながら私の隣に座ってくれた。
彼はどんな時だって私の話をちゃんと聞いてくれる。
そういうとこが、たまらなく好き。
だけど、だけどね、



「私のこと、好き?」


自分で蒔いた種とはいえ、たまに強い不安感に襲われるのだ。
彼は本当に、本当に我儘放題の私のことが好きなのか。

ヒロトは優しいから、もしかしたら独りぼっちの私に同情してくれてるだけなんじゃないのか、って。



「ははは、今更何いってるんだい?好きだよ、大好きだよ。」


ヒロトはそう言ってぐりぐりと私の頭を撫で回してくれるけど、彼は本心を隠すのが上手だから。
簡単に信じることなんてできないよ。



「分かんない、信じらんない!行動で示してよ!私が不安にならないようにしっかり私を愛してよ!!」

「……、」


ごめんなさい、ごめんなさいヒロト。
本当は私だってこんな事言ってヒロトを困らせたくない。
でも、小さな頃からヒロト以外の人間を遠ざける為に我儘な仮面を被り続けていたら、本当に我儘になっちゃったの。
ヒロトにまで我儘をいっちゃうようになっちゃったの。
ごめんなさい、ごめんなさい。
もう私にも止められないの。



「……どうして泣いてるんだい?」


「……泣いてなんかないよ、」


「……全く、」


そのままヒロトは私を優しく抱きしめて、背中を擦ってくれた。
ヒロトの仄かな体温に融かされていく。
「ごめんなさい、」と小さく呟くと、彼は私の目元に唇を寄せて、私の涙を消してくれた。



「大丈夫だよ、オレには全部分かってるから。」


ヒロトの綺麗なテノールが優しく優しく私の中に染み込んでいく。


「君がオレだけのものであれば、それでいい。だから君はそのままでいいんだ。」


そこでヒロトは私の唇に小さくキスを落として、「アイス買ってくるね、チョコがいいんだろ?」
と柔らかく微笑んだ。


「うん……あ、ありがと……」


「オレが戻ってくるまでいい子にしててね。」


そして彼は最後にポンポンと私の頭を軽く撫でて、上着を羽織直して部屋から出ていった。


「ありがとう……」


もう一度、ヒロトが出ていった扉に向かって呟いた。
ごめんねと好きだよの意味を込めて。






「おうヒロト、コンビニか?」

「あぁ、晴矢。ちょっとチョコのアイスを買いにね」


「チョコのアイス?お前甘いもの嫌いだったろ……って、あぁ、アイツか。」


「まぁ、ね。」


「全くお前もよくやるよなー……あの我儘娘の子守なんてよ」


「ほんと、彼女には困ったもんだよ。オレもそろそろ限界。」


「げ、お前が音を上げるなんて相当だな。ま、オレは極力関わらないようにするぜ」


「……そっか、」




(それでいい、誰であろうと彼女には近づかせない。)

(絶対に、ね。)



「甘毒姫の幸福論」様へ提出!

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