現代パロ



「なあ、俺の話ちゃんと聞いてる?」
「もちろん、聞いてるよ」

ふんふんふんと鼻歌を歌いながらピンク色のマニキュアを長い爪に塗るナマエに少しばかり腹が立つ。俺が真面目な話をしているというのに適当に頷くばかりでマニキュアを塗る手は止めない。ピカピカと光る長い爪を見てはうっとり。

彼女はお洒落に命をかけている。こんなふうに言っては若干大袈裟な気もするが、実際に彼女は部屋の中でも外でもメイクは絶対にするし服にだって何万も金をかけている。今のご時世、ご飯を食べていくだけでも大変だというのに。

「それで、何の話だったっけ」
「やっぱり聞いてなかったのかよ!」
「ごめん」

最初の方は聞いてたんだけどね。と言って塗り終えた指にふうふうと息を吹きかける。

「だから、化粧品とか服に金使いすぎじゃねえのって言ったんだよ」
「ええ、そうかな。そうでもないよ」
「そうでもある。いい加減に将来の事も考え始めないと駄目だろ」
「でも、」
「でもじゃない」

ペチンと右側の頬を手の甲で軽く叩くとナマエは顔を真っ赤にして勢いよく椅子から立ち上がった。ピンク色のフレアスカートがゆらゆらと揺れる。足の爪にも丁寧にピンク色のマニキュアが塗られてあった。
トイレにでも行くのかと思ったらクローゼットの中から大量の服を取り出して近くにあったゴミ箱に突っ込んだ。この服がいくらしたかなんかは知らないがナマエが買ったんだから絶対にどこかのブランドの物だろう。ぎょっとして椅子から立ち上がると突っ込まれた服を慌てて引っ張り出す。

「おま、何してんだよ馬鹿!」
「うるさい!」
「馬鹿止めろって!」
「馬鹿じゃない!人の事バカバカ言わないでよ馬鹿!」
「馬鹿じゃなきゃこんな事しないだろ!」

しばらくの間、ナマエが突っ込んで俺が引っ張り出してを繰り返していた。何分かするとさすがに疲れたのか、ゴミ箱に突っ込む事を止めてうっすらと涙を浮かべた目で俺を睨みつけた。そして俯く。

「‥‥だもん」
「は?」
「シリウスのせいだもん!シリウスがもう少し不細工だったら良かったのよ!」

お金使いすぎなのはわかってたけど、格好いい彼氏を持つと彼女は大変なんだよ。シリウスったらお洒落しなくても格好いいんだもの。私みたいな凡人が隣に立ってたら女の子に笑われちゃうでしょ。だから少しでもシリウスに似合う女になりたかったの。それなのに、それなのに。

目を真っ赤にして、でも涙は零さずにぼそぼそと喋る。声は震えている。
その姿に思わず吹き出した。そんな事を気にしていたなんて馬鹿みたいだ。それに、なんてかわいいんだろう。く、く、くと腹を抱えて笑う俺を見てナマエは口を尖らせた。そのふっくらとした唇にも綺麗にリップが塗られて、柄にも無く綺麗だと思った。

仕事、ナマエのために頑張ろうかな。


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