(闇堕ちをしていない風丸)

風丸君は、僕を女の子扱いする癖がある。癖というよりもそう接するのが当たり前だという風に思っているのだ。 先日あった練習の後、僕以外はいない更衣室で着替えていた時のことだ。雷門の鮮やかな黄色いユ ニフォームを脱ぎ次に世宇子のユニフォームを手に取ったところで扉が開き振り向けば風丸君がいたわけで、お疲れ様と一声かけようとしたところ、悪い、と慌てた様子で自分で開けた扉を勢いよく閉めた。 開きかけていた僕の口も閉じて続けて着替えようとしたところに次には扉を隔てた円堂君の声が聞こえて直ぐに開閉音が耳に入れば、予想していた通りにキャプテンである彼が部屋に入る。そして一言僕に笑顔で声をかけては僕の隣のロッカーを気にするもなく使い始めた。ふと、まだ風丸君は部屋の外にいるのだろうかと気になりぐるりと見渡せば僕たちから離れたロッカーを使っていた。避けられているのだろうか。元々敵である自分を信用しろなんてまだ無理な話だったのだろう。そんなことを初めの頃は思っていたが、その後、先ほどのような行動が何度かあり意を決して本人から聞き出すもどうやら僕に対する嫌悪などで起こるものではないらしい。僕自身のせいではないなら風丸君自身の問題なのだろう。当時はそう思わなければキリというものがなかったのだ。

*

「風丸君、僕は女の子じゃないからね。」

そう隣の彼へ呟くように言えば、え、と戸惑ったように短く声を漏らした。 たぶん突然の僕の言葉に驚いたか何かだと思うけれど。

え、じゃないよ。 再度呟くように彼へ振り向いて言うと分かってる、と返される。 何もない、普段通りの様子だが焦りがちらついていた気がした。しかし「分かってる」の言葉は嘘ではないようだけれど、風丸君の様子はどこかうわついていて僕はむっとする。

「あのさ、アフロディ。」 驚いた。それは、風丸君が僕の手に自分の手を重ねたから。芝生の上に置いていた僕の手はちくちくとした感覚を受けながら彼の体温を感じる。

「今更とかそういうのなのかもしれないけどさ、 俺、お前が好きなんだ。」

風丸君は右目にかかりそうな前髪を払い、それか ら僕をじっと見て言った。「好き」という言葉が 自分より低い声で伝えられ鼓膜にじんわりとそしてやわらかくまとわりついた気がした。その真っ直ぐな目から僕は逃げ休憩中で誰もいないグラウンドを見つめる。 重ねられた手に力が込められると今度は握られる形となった。怒っているのだろうか。それはそうだろう、告白をされて答えるわけでもなく意識を違う箇所に移してしまえば。でも、彼は何も言わずただ僕の手の甲を包んだ。この空間に険悪だったり甘いなどという名前はなく、かといって気まずくもないものに僕はため息とは言わない息を吐いて芝生へ背中から倒れ込む。太陽は薄い雲に覆われていて眩しくはなかったけど隙間から切れ切れに差し込む光に手が重ねられていない方の腕を目の上にかざした。

その様子を見ていた風丸君は、髪が汚れるぞと一 言僕に言った、のかは分からないけどそう呟いた。確かに僕の髪を見たらそうも言いたくなるだろうけれど彼は、寝転んだら顔も汚れると言ってこちらを見た。顔ならサッカーでだって汚れることもあるだろうに。 女の子扱いだ。

「君がこれからも僕を女の子扱いするのなら、告白の返事はこれからもずっとNOだよ。」

もう女の子扱いがどうだとか、自分で発言したものにも関わらず既にその考えは消えかかっていたけれど僕は頑なになって言う。

「アフロディ。」

太陽が雲から出る間際、きっともうすぐに自分の視界は眩い光だけになるとてっきり思っていたわけで僕は瞼を閉じた。 ふと瞼の下から感じた影に少しの疑問を浮かべていたところに、彼からの不意の呼び掛け。そしてこちらの瞼が開く方が早かった。しかし気にする箇所は違ったようで、僕の視界には風丸君だけがいたことに肩が跳ねる。空と錯覚するような鮮やかな青い髪がさらりと揺れれば唇を塞がれた。

唇を塞いでいるものは僕に口づけている箇所と同じもので。今度は僕が小さく声を漏らす番だった。

「待って、風丸く…」

慌てて自らの口許を手の甲で隠しても彼はその手 首を掴んで無理に避けた。

今日の気温は比較的暖かいと予報で言っていた気がする。その気温よりも互いの唇は熱を持っていてその熱を口づけで僕たちは共有していて。激しさは全くなく引きついては離れるといったキスを彼はする。角度を変えながら同時に唇へ唾液がついて僕は言い様のないものを覚えた。

「…乱暴、だよ」

激しくはないとしても息継ぎを充分することは出来ず、唇が解放されてからゆっくりと酸素を肺へ招き入れたところでじっと僕を見つめる風丸君に目を細めた。僕の言葉に、また彼も同じように目を細めて、それは笑みを浮かべているようにも見えたけれど。

「男、なんだからいいだろ。」

そういうことじゃない。その言葉を飲み込んで僕はああ、そうだね、と彼と同じ熱のある唇を開いて答えたのだ。

あとは、イエスとも答えよう。



*理奈さん、本当に素敵な風照をありがとうございました!



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