草薙リオ
並盛中2年A組。イタリアからの帰国子女。日本人。白の短髪。オッドアイ。小柄。頭脳、運動神経共に中の上。帰宅部。一人暮らし。

……等々、彼女を表す言葉は実に様々だった。
憶測、第一印象、多種多様な手段を用い、渦中の人を表現する。

しかし、実際に彼女と関わった者は、皆口々にこう言った。

「何人たりとも、彼女の心の内を知ることはできない」と……。





*****

リオが編入してから、オレの身の回りでは奇妙な出来事が起きていた。

1つ目。
リオがオレの側にいる間、マフィア絡みの事件や問題がピタリとなくなった。
自惚れかもしれないけど、これは真実…だと思う。
この件に関しては、オレにとってはとてもありがたい。
だってオレは、マフィアになんかなりたくないから。
ダメツナライフと笑われようと、それまでの平凡な毎日を送る方が、オレにとっては幸せだから。

2つ目。
身近にいるマフィアが、リオの目の前で無茶苦茶な事故を起こさなくなった。
ランボやイーピンといったチビたちはともかく、リボーンを始めとした裏稼業を専門とする知り合いたちが、リオの前ではそういった素振りを一切見せなくなった。
喧嘩なら一般人相手にもダイナマイトを巻こうかという勢いの獄寺君でさえ、抑え込むように拳を強く握るだけになった。
……それでも、殴ったりはしちゃってるけれど。

そして何より、リボーンがリオをマフィアに勧誘しようとしない。
いや、それどころかする様子もない。

イタリアから来た、ってことは少なからずマフィアに関係した人だと、初めて会ったとき直感した。
今までがそうだったし、これからもそうだと思ってた。
事実、リオはリボーンのことを知っていたし、獄寺君にビアンキにディーノさん、コロネロやシャマルの事も知っていた。
そして何より、9代目の娘だということが、オレの中で彼女はマフィアだと決定づける最大の要因だった。

けれど、そんな有名なマフィアと知り合いだったにもかかわらず、彼女はマフィアはともかくそういう「裏の仕事」とは全く関係の無い人物だった。
9代目のことは何かの大きな会社の社長だと思っているらしいし、ディーノさんのことは小さい時からの知り合いだって言うし、リボーンは何でも知ってる凄い赤ん坊だと思いこんでるらしい。

そんな彼女が、何処か恨めしくて。
言い方は悪いけど、9代目の娘なら10代目ボスの有力候補者となっているはずなのに、彼女はただの一般人。
逆に一般人だったオレは、何故か10代目ボスの候補者に。
リオがマフィアだったなら、オレはまた昔のような生活を送ってたんだろう。


「ちょっと、羨ましい…な」


ランボやイーピン、フゥ太と遊ぶリオを見て、俺は小さく呟いた。
不謹慎かもしれないけど、名だたるマフィアと知り合いでいながら、本人はマフィアとは全く無関係な彼女が羨ましくて堪らない。
何で、彼女じゃなくてオレなんだろう…無邪気に笑う彼女の姿に、恨めしく思ってしまった。


「バカ言ってんじゃねーぞ、このバカツナめ」
「いでっ!」


そんな呟きと思いが、どうもリボーンに伝わったらしい。頭を思いっ切り殴られた。
あの小さな体のどこにそんな力があるのか…未だによくわからない。


「い、いきなり殴ることはないだろ!」
「ムカついたから殴った、ちゃんと理由はあるぞ」
「理不尽すぎるだろ!」

殴られた頭を押さえながら、再びチビたちと遊ぶリオに視線を向ける。
屈託の無い透明な笑みは、本当に「表世界」の少女だということを表しているようだ。


「リオは9代目の娘なんだろ?
だったら、別にオレが10代目にならなくても――」
「その台詞、絶対に他のヤツに言うんじゃねーぞ」


勿論リオにもだ、とオレの言葉を遮り、黒く光る銃をオレの眉間目掛け構えるリボーン。
その目は帽子で見えなかったけど、いつになく怖い雰囲気なのはすぐにわかった。
身体に刺さる殺気が、痛い。


「リオの前でマフィアの話をするのは、マフィア界全体のタブーになってんだ」
「なっ、え、そうなんだ…」
「アイツは、お前が思ってるほど楽な人生生きてねーぞ。
それに…とんでもねー宿命を背負ってんだからな」
「宿、命……?」


どういうことか尋ねたかったけど、聞く前にアイツはどこかへ行った。
気まぐれなリボーンにため息を吐きながら、オレはまたあの子のいる方へ目を向けた。
白い髪から覗く笑顔は、やっぱり透明だった。
こんな子がマフィアになっちゃいけないってことは、誰が見てもそう思うだろう。

そんなあの子が持つ「宿命」って?
そういえば、コロネロは「風の姫宮」がどうとか、言ってたような……

……いいや、今は、考えないでおこう。



泣き出したランボを引き取りに、オレはリオの元へ行く。
今は、このささやかな日常を精一杯楽しむことにしよう。

難しいことは、それからだ。









イタリアからの帰国子女
(風の姫宮)
(それがどんな意味を持つか、まだオレは知る由もなかった)



*



Back

[*back] | [next#]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -