豚で結構




農学部竹谷が家畜豚に彼女と同じ名前つけてる話。竹谷が空気読めない奴?
相変わらず纏まりもなんもない話です。







私と竹谷は付き合って4年になる、なかなかの熟年カップルだ。
高校2年から付き合い始めて大学は別々のところへ通っているので遠距離恋愛なるものをしているがとくに冷めたりしたことはない。
いや、一度だけある。
一年前、私と竹谷が大学一年生の冬。
久しぶりに地元に帰省をした私はそこで久々に見た愛しの彼氏に度肝を抜かれたのだ。
駅に迎えに来た私の彼氏である竹谷は太っていた。それはもう、昔の爽やかでタケメンと呼ばれたスポーツマンな面影は何処に。ただの弛みに弛みまくった豚のような竹谷が立っていたのだ。
しかも青年らしさの残る声までもがピザ体型独特の声になっており、そんな声で名前を呼ばれた私は思わずそのぶよぶよな腹にボディブローを決め見事弾かれたのだ。

なぜスポーツマンな彼がこんなに太ったかというと、不規則な生活にサークルの付き合いが彼の体をぶよぶよにしたらしい。

そんな竹谷に私は次帰ってくる夏までに豚を卒業することを命じ、夏まで卒業できなければキスすら禁止にした。それを聞いた竹谷は涙目になっていたが心を鬼にしてキッパリと言い切った。
そして私は地元に豚、もとい竹谷を置いて帰ったのだ。

私は好きな相手ならどんな姿になっても愛せるなんて天使のようなことを言う人間じゃない。
世の中9割見た目重視、これが現実なのだ。


そして大学2年の夏。
再び帰省した私を待っていたのは豚じゃない爽やかなタケメンだった。

タケメン姿に胸を踊らせ私は久しぶりの逢瀬を楽しんだのだ。


そして現在。
私はクソ暑いなか竹谷が大学で飼育している豚小屋に来ている。
竹谷が普段どんなふうに生活しているのか興味があったし、まあこれもデートだと思えば楽しいものである。けれど…、

「よっ、名前元気にしてたか〜」

「おいこら竹谷。おまえどういうことだ」

何故豚の名前が私の名前と一緒なんだ、ん?

「ん?…あ、ああこれか〜」
へへへ、と照れ臭そうに髪を掻きながら竹谷はもじもじとしだした。

「照れるとこちがうっ!」

いや、可愛いけどね!
でもなんかムカついたから私はとりあえず竹谷の腹に一年前の冬以来のボディブローを決めた。
今度は弾かれなかったけど手が痛かった。竹谷どんだけ鍛えたんだよ。
早くその胸板見せやがれちくしょう。

「いてて、…なんつーか、名前と離ればなれになったあと結構寂しくてさ。そんなときにこいつを育てることになって、名前の名前をつけたんだ。名前が一緒なせいか妙に愛着わいちゃって」

な、名前!と竹谷が豚の名前を呼べばブヒッだか、フゴッだか豚は鳴いた。

そこには確かな信頼関係が築かれていて、竹谷が豚の名前をどれほど大切に育てていたのかがよくわかった。

「変わらないね竹谷」
高校時代と同じように動物を大事にする竹谷の姿に思わず微笑んだ。
寂しさをまぎらわすために私の名前をつけて世話をしてたなんて、最初は豚とかこいつ去年のこと恨んでるのか?とか思ったけど、今はもうなんか愛しい。
私もこっちにいる間は豚の名前ちゃんの世話でも手伝おうかな。
私が普段は思わないようなことを思っていると竹谷が口を開いた。

「でもまた寂しくなるな〜」
「なんで?」

「だってこいつもうすぐ売りに出されるからさ」

眉を八の字にして言う竹谷に笑顔が固まった。

「あれ?言ってなかったか。名前は食用だから売りに出されるんだよ」

可哀想だけど仕方ないよな、なんて言う竹谷。

え、え?つまりこの豚は食用でもうすぐ売られちゃって豚の名前は私の名前で食べられる運命で竹谷が育ててて、そりゃ美味しいだろうけどえ、ペットみたいな感じじゃないの?食用に私の名前って。私そいつの世話しようとか思ってたのに竹谷のこと惚れ直してたのに、食べられるとか……

「名前?」

何も言わない私を心配して覗き込んできた竹谷

「あ、もしかして食べたかったのか?」

プツン―

「ッだからおまえは顔はいいくせにモテないんだよこのモップバーカ!!」
「ええっ!?」

「まじデリカシーなさすぎだろこのクソモップ!!昔と変わらないなとか、私の名前つけるとか可愛い奴めって思ってたのに!そりゃ竹谷が育てた豚だから美味しいだろうし食べてみたいけど!これはないぜ竹谷さん。まじ空気読めよ私の乙女心返せ!!」

勢いよく捲し立て竹谷の胸ぐらを掴むと竹谷は勢いに圧されて「ご、ごめんなさい」と謝った。
柵の中の名前も空気を読んだのか竹谷を責め立てるようにブヒヒと鳴いた。

竹谷はたしかにあの頃から変わってないけどそれはデリカシーのなさも変わってないってことで、つまりはこいつはいつまでたっても残念なタケメンなんだなと悟った大学二年の夏であった。

この後私は竹谷にしゃぶしゃぶ食べ放題を奢らせ、竹谷の財布の中身を空にしてやった。

とりあえず私の大好きな愛しい残念な彼氏様には、次会うときまでにちょっとでも空気を読むということを覚えていただきたいなと思いました。



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