美しい手





ぬるい死ネタ










「ねぇ、痛い?」

ああ。痛いよ勘右衛門。

「俺も痛くしてよ」

痛くしてよって変態だな。痛くしたって、なんも気持ちよくないのに。

「ちゃんと力入れてよ」

入れてるよ。限界ギリギリ。おまえ、呼吸だってヒューヒュー言ってるし、目も虚ろなのにまだ足りないのかよ。

「はぁ、…ん、いいよ 」

まるで閨事の最中のような艶やかな声を漏らす勘右衛門。
ぐぐぐ…、と力は増していって、私からもおまえからもヒューヒュー、ヒューヒューすきま風みたいな音がするんだ。おもしろいな。
ギシギシ、ギチギチ 「あっ、…はぅ」

骨が軋む音にまじって、上にいる勘右衛門から厭らしい場面を思い起こさせる喘ぎが零れる。
やめろよ勘右衛門。ヤってるわけじゃないんだから。
「はぁ…、頭ぼうっと、する…」

そりゃするだろうよ。私なんてずっとだ。しかもおまえがずっとぼやけて見えるんだ。不思議だろ?

「は、…もうすぐ、一緒になれるね…」

…ああ、そうだな勘右衛門。
白眼をむいて、ヒューヒュー、と呼吸音は灯火が消えるように徐々に小さくなっていく。

「ッ…ハ、…名前、ハァ、好き。好き好き大好き、ン あ、いしてる…!!俺が、傍にッ…い 、から…」

息も絶え絶え。呂律も回らないまま言葉を紡ぎ、勘右衛門はうっとりとした表情を浮かべ、こてん、と力無く首をさげた。

バカだな、勘右衛門…。
ほんとにバカだよ。

ダラリ―…
勘右衛門の首に添えられていた私の手と、勘右衛門の手が落ちていく。
私の意思ではとうに動かない腕。
手の甲についた雫の冷たさですら感じられない。


ああ、勘右衛門。さっきより痛いよ、勘右衛門…。

己を支える力がなくなり、勘右衛門の身体はバタリと私の上に倒れこむ。

勘右衛門。おまえまで死ぬことなかったのにな。
本当に、バカな奴だおまえは。
勘右衛門の目玉と、私の目玉が接吻できそうなくらい近いのに、抱き締めあうことすらもう叶わないんだ。
なぁ、勘右衛門…、勘右衛門…。
私のことを勝手だと言ったが、おまえも勝手だよ。

だって、いつだって私の願いを簡単に無視するんだ。
寂しがり屋さんはどっちだよ勘右衛門。

あいつ、私がずっと傍に居たの知ったら発狂するかもな、ははは。
気づかず逝っちゃうなんて、相変わらず鈍い奴だよ。

―…ああ。
兵助や雷蔵、三郎にハチの声がする。
さすがにそろそろ行かなきゃな。
名残惜しいけど、寂しがり屋で鈍感な恋人が泣いてしまうと大変だから…。



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