私と君の110の約束




※鉢屋がキモイ脳内が春、痛い








すき、好き、だいすき、愛してる。私は何よりも誰よりも名前を一等好いている。
ああ、こんな陳腐な言葉を並べるしかきみに気持ちを伝えられないなんて。
でも信じてくれ。ほんとに君が好きなんだ。
あいしてなんて言わない、好きだなんて言わなくていい。逢い引きもしなくていい。接吻だって床を共にすることだって望まない。
なんでかって?名前を汚すようで嫌なんだ。

ね、君からはなにもしなくていいんだ。
でもね、ひとつだけ約束をしたい。

なにもしなくていいからただ一日三回、二回だっていいから私に顔を見せてほしい。
それだけで私はなにもいらないから。
名前の顔さえ見られれば、それだけで私は幸せなんだ。






そう言って幸せそうに頬を染めてはにかむ鉢屋。
不破の顔の下からでも頬を染めているのがわかるくらいきっと彼は今真っ赤なんだろう。


昨日彼は突然私の部屋に現れて、私に思いの丈を告げたのだ。

現れた鉢屋はただ立ち竦むだけで、行動を起こさなかった。それに苛つき、「用がないなら帰ってよ」と言ったら鉢屋は急に子供のように泣き出した。
暫くして気持ちが落ち着いたのか、鉢屋は漸く言葉を紡いだ。

鉢屋が言うには、最近私と会えなくて不安になったということだった。

いや、まあ確かに実習に出てて会ってなかったけど…。そんなになるほどなの?
私と鉢屋はくのたまと忍たまのわりには、まあよく話をするほうではあった。挨拶もするし、話しかけもする。わりと仲が良い、友人の一人だと思っていた。

だからこそ、私は彼の態度に動揺した。彼の態度は、まるで恋人に会えないのを悲しむようだったからだ。いまいち彼の言動、行動が私の中の彼との位置関係とそぐわず、混乱して黙ったままでいると鉢屋は私に、「私はほんとうに名前が好きなんだ。少しでも会いたいんだ」と告げて、彼は音もなく部屋を去った。

なんとまあ、衝撃的だ。どうやら鉢屋は私のことが好きらしい。ポリポリと私は右頬をかいた。
正直そんな素振り、今まであった気がしなかったからどういう反応を示していいかわからなかった。だから私はとりあえず寝ることにした。実習帰りで疲れてたから、早く休みたかったのだ。


そんなことがあって現在。鉢屋はもじもじといじらしく、私を熱の籠った瞳で見つめる。

いや、あのね鉢屋さんよ。約束してくれないかって、まあしないこともないけどね。私たち、"恋人"じゃないのよね? その辺わかってる、よね…?

「やはり、迷惑か…?」

途端に悲しげな表情へと変わる鉢屋。
いや、迷惑とかじゃなくてさあああ!

「いや、だから約束とかする前にね、」

「そうだよな。私なんかから約束をねだるなど烏滸がましいことだったな。すまない、忘れてくれ」

なんか勝手に自己完結しようとしてるし…。どんだけ鉢屋悲観的なのよ。
あー、もう!

「約束する!てか、そんな約束しなくても会うし、逢い引きも手を繋ぐことも、接吻も、床を共にしたっていいんだよ!」

言ってしまった…。

鉢屋はそれはもう嬉しそうにして、私に触っていいかと聞いてきた。
うん、と言うと鉢屋はおずおずと手を延ばし、壊れ物を扱うように私を優しく抱き締めた。そして堰を切ったように、わんわん泣き出し私の肩を濡らした。

そんな姿に胸の奥がきゅうっと、絞められる感じがしてああ、こういうのもありだな。なんて思ってしまった。


わんわんお!

こんな感じから始まる恋もまあ、ありだよね。
「名前、私今なら死ねる」
「死なれたら困るから死なないでね」
「名前っ!!好き!」
「ぐえっ!あ、ちょ、死ぬ」



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