あいうぉんちゅー




恋をするのに理由なんていらない、などという言葉がある。俺は最近までそのことについて深く考えたことはなかったけど、たしかにそうだなと思う。何故かって、只今絶賛片想い中だからだ。言っておくが俺はけして惚れっぽくはない。むしろ、言い寄られて付き合ってなんか別れるみたいなことが多い。自慢ではないが俺の容姿は世間で言うところの美形にはいるらしい。中性的だとよく言われる。つまり、容姿に惹かれた女の子や男の子が寄ってくる。あ、ホモじゃないからな!人に言わせるとバイセクシャルらしいが俺はそんな気一切無くて、あまり性別にこだわりがないってだけだ。あれ、やっぱバイなのか?
俺もまあ面食いなもんで好みだったら付き合えるし好きになれる。正直ごちゃごちゃ考えるのめんどくさい。取敢ず前置きはこれぐらいにして、片想い中な俺、名無し名前が恋したその相手は南雲晴矢という人で、名前から察するとおり男なんです。もう一度言っておくが俺はけしてホモじゃない。女の子大好き。ただ、今回初めて自分から好きだと思った奴がたまたま男だっただけ。それだけなんだ!






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桜の花弁が散り散りながら新しい制服に身を包んだ者達が期待とちょっぴりの不安を抱きやってくる。新しく入学してきた名前にとって後輩にあたる者達だった。そんな初々しい姿を名前は四階の旧美術準備室から見ていた。
俺もこんな初々しかったのかねぇ、なんて思う自分は年を取ったなと苦笑する。楽しそうに会話に華を咲かし帰っていく姿はよくある光景だというのに見ていて飽きないものだ。進級をして学年が上がりクラスが変わる。今日はその顔合わせのようなものだった。昼までに終り、今は午後二時。名前は通い慣れたこの場所でぼんやりしたり、デッサンしたりとしていた。

そろそろ帰ってゲームでもしよう。名前は教室に放置してきた鞄をとりに行く為に此処をあとにした。


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教室に入ると誰かが机に突っ伏しており、その隣は自分の席だったのでこの人物が誰なのかはすぐにわかった。俺が片想いしている相手、南雲晴矢だ。神からのサプライズなのか嬉しいことに俺は南雲晴矢と同じクラスでありそして席が隣同士だ。運命感じるなこれ。取敢ず俺の…、じゃねぇや。南雲が規則正しく寝息をたてているなんて俺は初日からついてるなと思う。人生すべての運を使い果たしそうで怖い。俺は大きな音を発てないようそろーっと自席へ近づき鞄を手に掛けた。ちら、と顔を盗み見る。薄く開いた唇から漏れる吐息。下睫毛長いと思ってたけど上も長いな。閉じられた目蓋を縁取る睫毛が影をつくる。なんでこいつこんな綺麗なんだろ。つか、涎ちょっと出てるとか可愛いな。あー、やべ。抑えきれない、ムラムラしてきた。先程からどくどくと音打っていた心臓は更に大きく音を発て跳ね動く。気づくと、俺と南雲は至近距離にいた。唇には感触があり、キスをしていることに気がついた。離れなきゃ、そう思うのに身体は吸い寄せられる。幸いなことに南雲はまだ寝ている。
あともう少しだけ…。俺は一端唇を離し、もう一度触れさせた。

あー、俺今なら死ねる。だって胸が苦しいもん。でも幸せだな。今まで感じたことのない苦しさや幸福感に満たされる。うっすらと目を開け南雲を見ると南雲は細く目を開けじっとこちらを見ていた。驚いてパッと離れる。南雲はぼやーっとしながら何度か目を瞬かせてぱちくりと目を開けた。
「…え、は?」

「………。」

やばい。まだ完全とは言えないけど、覚醒してるよこれ!
ど、どうしよう。ムラムラしたから、じゃ通じないよな…。南雲はぼけっとしながら自分がされたことに気づいたのか立ち上がり、ぼんっと湯気が立ちそうなくらいに顔を赤くし口をぱくぱくさせている。
うん、不謹慎かもだけどまじ可愛いです!

ほんと俺の理性はどこに逝ったんだろうね。
気づけば本日三度目のキスをしていた。うん、やっちまったもんは仕方ない。だって南雲が可愛いことばっかすんだもん。
腰を抜かしたのかガタン、と音を発て南雲は椅子に尻を付いた。今度は真っ赤なまま放心している。俺は鞄を手に掛けてさっさと教室から出た。いや、だってこのまま一緒にいたらそれ以上しそうだし俺の心臓が持たない!あと、状況を掴めない南雲に悪いなと思った。あーあ、見てるだけで良かった筈なんだけどな。俺ってば動物と一緒じゃん。まあ、いっか。やっちまったもんは仕方ないんだよな。俺はふと、足を止め南雲の唇が触れた自分のに触れた。さっきのことを冷静に思い出し顔に熱が集まるのを感じる。
うわ、これさっきの南雲と一緒じゃん。恥ずかしさを紛らわす為に再び早足で進む。明日がある意味楽しみで怖い。

「よし、」

俺は決意を固め学校から出た。

名無し名前、高二、男。
今日から全力で南雲晴矢(男)を落とします!

…取敢ず落ち着くために帰ったらゲームしよう、うん。



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