未完成なヴィーナス




偽ミストレ←

ナルシストだがなんか優しいかんじ





俺は美しい。それはわかりきったことだった。生まれた瞬間から当然のように愛され欲しいものはなんでも手に入った。裕福な家庭、知識、女。俺は自分がキレイなのを知っていた。だから俺自身キレイなモノや可愛いモノが好きだった。自分がいつだって何をしたって一番だった。そんな俺は気づいたらいい感じに捻くれていて我ながらいい性格してると思う。そんなふうになって早数年、俺は王牙学園の生徒として生活をおくっていた。変わらず俺の周りには女の子がいる。まるで蜜に群がる蝶のような彼女達を見ていると可愛らしくもあるがバカらしくも見える。俺の行動にいちいち騒ぐ彼女達。悪い気はしないが疲れるときもあった。そんな毎日のなかで俺はどこか満足していなかった。勿論それはいつまでたっても不動の一位であるバダップを引きずり降ろせないことなんかもまあ、関係していたがもっと別の何かがあった。





ある日、俺はとくに意味もなく屋上へ行った。もちろん親衛隊の子達は撒いてきた。俺だってたまには一人になりたくもなるんだよ。屋上に足を踏み入れると目に飛び込んできたのは空の色と同じように輝く髪の毛だった。それに一瞬で目を奪われた。不覚にも奇麗だと見とれた、この俺が。
髪の長さから察するに女の子らしいその子は腰まであるんじゃないかというぐらいの髪を風に靡かせていた。俺の気配に気づいたのかくるり、とこちらを向いた。髪の色と同じ空色の瞳に色白の肌。

「どなたですか?」

声をかけられ一瞬戸惑った。なんだこの感覚。

「ああ、俺はミストレーネ・カルスだ。」

「ああ!ミストレ先輩ですかー」

どうやら俺の名前は知っているらしい、後輩のようだ。

「私は名無し名前です。初めまして」

ゆったりとお辞儀をする名無し。ほわほわとした雰囲気に本当にここの生徒なのかと疑いたくなった。

「初めまして」

クスリ、と笑い俺も挨拶する。
「…何か悩んでるの?」
「え、」

足どり軽やかに。まるで重力など存在していないかのように名無しはふわりとこちらに近寄り俺の手をとった。
「ミストレ先輩、」

まるで自分のことのように悲しげな顔をする名無しを見てなぜか心が温まるのを感じた。目頭が熱くなるのをぐっと堪える。すると名無しの頬にボタボタと雫が落ちた。

「なんで、泣くの?」

「ミストレ先輩のかわりだよ」

空色のガラス玉から滴る雫はキレイでもっと見ていたいと思ったけど空が笑うのを見たいから俺は雫を拭った。





あれ以来彼女とはよく会うようになった。苗字から名前呼びになり、名前の敬語もわりと砕けてきた。どうやら名前の学年で彼女は成績トップらしい。勉学はもとより実技も凄いのだそうだ。こんな小さいのにね、と笑ったら腕を噛まれた。今までの自分ならその行為に対しきっと容赦なく罰を与えただろうが何故か名前には酷くできなかった。代りに俺は名前の頭を叩いたりする程度だ。勿論加減して。
話を戻すが名前はもともと直感が鋭く人の感情に敏感らしい。だから俺を見て悩んでいると思ったらしい。悩んでいたわけではないが近いものはたしかに持っていた。そんな鋭い彼女は少々人に疎まれ、もとから備わっているこのふわふわとした感じに容姿、率直さがプラスされて関わろうとする人物は一人もいないらしい。まあ、確かに俺も少し彼女を電波なのかと思うこともよくあるがそうじゃないことは付き合いを重ねるうちによくわかった。

「先輩今日も綺麗だね」

俺のチャームポイントをくるくると弄びニコニコと笑う彼女。俺も名前の空色の髪を撫でた。

「当たり前。…俺も、名前は出会った中で一番キレイな女の子だと思うよ」

「ホント?うれしい!」

照れるでもなく素直に言葉を受け入れる彼女。前にどうしてそんなにすんなりと言葉を信じるのか聞いたら彼女は、人の嘘が見抜けるぶん自分はいつでも真実を言おうと考えたらしい。
本当に、どこまでも心がやさしい奴だと思った。

「先輩、先輩」

「なに?名前」

「私、先輩が好きです。ラブなほうで」

急な告白。だが、彼女の突発的な行動には慣れている俺はにこやかに微笑んだ。
「俺も名前が好き」

言ったあとで羞恥が込み上げる。ただ"好き"と言うだけなのに今までと違うのがわかって本当に名前が好きなんだとかんじた。

「うれしい。本当はね、先輩の手に初めて触れた時にね心が温かくなったんだよ。ミストレ先輩と、…ミストレと一緒なら私は、私でいられるって直感的に思ったの」

彼女のキラキラとした輝く瞳に見つめられ、ああそうだったのかと気づいた。
いや、本当は気づいてたんだ。名前と会ってつまらない日はなくなり俺は毎日満たされてた。彼女の隣で俺も浮かんでいたかったし、彼女が飛ばされないように手を握ってやりたかった。きっと名前も飛んでいかないように俺に隣に居てほしいと思ってたんだ。自分でちゃんと、ふわふわ飛んでいってしまうことを知っていたから。

「俺も。名前が居るから俺でいられる」

「うん。だから、ちゃんと捕まえててね」

ぎゅ、と手を握りあった。

さて、散歩でも行こうか?
地面を歩く練習をしよう。






空中散歩と金魚



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