「…ここが、師匠さんのおっしゃっていたお屋敷なんでしょうか?」

目をごしごしこすりながら、小夜が尋ねた。
朱里は渋々頷いてみせる。

「ああ、たぶん…」

信じたくはないが、師匠に渡された手書きの地図の紙には、間違いなくここが目的地と書かれていた。
いくら地図を逆さにしても、太陽の光にかざしてみても、その事実は変わりそうにない。

「…は、入りたくねぇ」

思わず本音が漏れてしまう。

師匠たちがなぜこんな美味しい仕事を自分たちに回してきたのか、朱里には分かる気がした。

このけばけばしい建物の中に足を踏み入れれば、たちまち自分自身も取り込まれてしまいそうな、尋常でない気配が渦巻いていたからだ。


思わず拒否反応を示して後ずさった朱里を引き止めたのは、小夜の腕だった。

「行きましょう、朱里さん!ご依頼人の方がお待ちですっ」

朱里の袖を引っ張りながら、小夜はずんずん建物の入口へと向かっていく。

「ちょ、待て、やめろ!俺は入りたくない!」

子どものように駄々をこねる朱里と、有無を言わせずそれを引きずっていく小夜。

その後ろ姿を背後で黙って、腰に手を当て仁王立ちし見つめる一つの目があったが、二人はそれと気付かずそのまま大扉の中へと消えていったのだった。


****



二人を出迎えてくれたのは、意外にもまともそうな執事の老爺だった。

小柄な体を黒のタキシードに包み、鼻の下に真っ白の髭を切り揃えた人の好さそうな執事は、朱里と小夜の姿を認めると、穏やかそうな笑顔を浮かべて近づいてきた。

「これはこれは。ご紹介頂いていたトレジャーハンターの方々ですかな?」

どうやら師匠が事前に話を回しておいてくれたらしく、執事の様子からすべて了解済みであるらしかった。

朱里はわずかに安堵しつつうなずく。

「よくぞお出でになりました。お話はお嬢様のほうからさせて頂くはずなのですが、ちょうど今お出かけになられているようでして。申し訳ないのですが、少しお待ち頂けるでしょうか」

朱里と小夜がうなずくのを確認すると、執事はすっと腕を屋敷の奥のほうに伸ばした。

「では、お部屋へご案内させてもらいますので、お二方ともこちらへどうぞ」




執事に案内されたのは客間のようだった。

大きな両扉を開くと、朱里と小夜の目には眩しいほど飾り立てられた部屋の光景が飛び込んできた。


豪華絢爛と表現しても余りが出るほどの煌びやかさ。
部屋自体は広いはずなのに、辺り構わず調度品や芸術品の類が飾られているため、人が歩き回れる範囲はずっと狭い。

ここまでくると、飾ってあるというよりは、無造作に置いてあると言ったほうがいいのかもしれなかった。

「す、すごい部屋だな」

思わず呟いた朱里の一言に、執事は苦笑して答えた。

「お嬢様のご趣味なんですよ。芸術と聞くとすぐに手が出てしまわれるようで…。これでもここは抑えてあるほうなんですが。お嬢様のお部屋はこの倍高価な物で埋まっていますから」

ざっと見た感じ、ここに置かれている絵画や骨董品は種類も様々だったが、その絵のタッチや形、質感に至るまで、統一されているわけでもなかった。

手当たり次第漁ってる感じだな、と朱里は心中呆れ返る。
せっかくなかなか良い芸術品があっても、こんな扱いを受けていたのでは、劣化も早いはずだ。

一体どれだけの宝がこの屋敷内で腐っているのか考えると、まだ顔も知らないお嬢様とやらにも多少腹の立つ思いもした。



prev home next


4/67


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -