星月夜の下 祈りの歌を





朱里と小夜がその街を訪れたのは偶然のことだった。
そこで腐れ縁の二人組と再会したのもまた、偶然といえばそうだろう。

だがこの偶然を朱里は後々恨むこととなる。


****



「よう朱里。相変わらずみてぇだが、小夜ちゃんに迷惑かけてねえだろうな」

「…第一声からそれかよ」

うんざり顔を浮かべながら、朱里は前に立つ師匠とその隣に添うジライを順ぐりに見た。

相も変わらず何を考えているのか分からないジライは、「やあ」と軽く手を上げたきり動作もない。

それに比べ朱里の側に立つ小夜は、再会の喜びを隠すことなく、全身に嬉しいオーラを放出させていた。

「お久しぶりです、師匠さんジライさんっ!お元気にしていらっしゃいましたか?寒い日が続いてますが、お風邪など引いてはいませんか?」

心配そうな顔をしたかと思えば、すぐにそれも笑顔に変わる。

「あっ!そういえばトムくんたちはどうされてるんでしょう?お元気にしてるのでしょうか?」

高揚した気分のまま話しているため、小夜は珍しく弾丸トーク気味だ。
対する師匠は質問攻めに遭いながらもさすがは大人、余裕の笑みを浮かべていた。

「おう、元気にしてたぞ。体力だけが取柄だからな俺は」

威勢よく声に出して笑えば、反対に隣のジライは呟き声でぼそぼそ答える。

「…僕もこのとおり、元気だよ…」

「そうですか。よかったですっ」

もっとも、このとおりと言われてジライの姿を見ても、その青白く痩せた姿は病人のそれにしか見えないのだが、小夜はなぜか納得したようにうなずいた。

「子どもたちも元気にしてるぞ。今は宿で大人しくしてるよう言ってきたから姿は見えねえが、後で小夜ちゃんあいつらに会ってくか?」

「はいっ!ぜひ!」

話は朱里をおいて盛り上がっていく。

どうやら今回もまた、夜は師匠たちと同じテーブルで昔話に花を咲かせながら、食事するってことになるのか。

そう考えると今から気だるい。
例の三兄弟の顔を思い浮かべると、さらに肩の辺りがずしっと重くなるのを自覚した。

「…悪夢、再びか」

夜通しで行われたあの呪いの格闘ごっこ。
その第二弾が今夜また…。

「なんで仕事のねぇ日に限ってこんな…」

一人ごちたときだった。

「…朱里は今日、暇みたいだね…」

いつの間に横に回りこんだのか、すぐ側でジライが血色の悪い顔をぴたりと耳元に寄せた状態でささやいた。

独特のオーラをまとって鼓膜を揺らす声音に、朱里は思わず「どわぁ!」と耳を押さえて後ずさる。

「てっ、てめぇ…気配消して俺に近づくのやめろ!」

「…別に消してるつもりはないんだけどなあ。朱里が考え事してて気付かなかっただけだろうに…。自分のミスを人のせいにするのは良くないよ…」

思いも寄らぬジライからの説教に、朱里は返す言葉もない。

「…ねぇ師匠。朱里たちはどうやら今日の予定特にないらしいよ…」

「おっ、ほんとか!そりゃナイスタイミングだな」

師匠はわざとらしく両手を上げて驚きと喜びを体で表現した後、改めて朱里と小夜の顔をのぞき込んできた。

無精ひげの生えたいかつい顔が、満面の笑みを咲かせる。

「――暇そうなお前らに、とっておきの話があるんだよ」


****



急遽話の場として設けられた酒場の席で、師匠が語って聞かせたのは、ちょうど朱里が何かないかと求めていた仕事の話だった。

しかしその内容は、普段のものと比べて明らかに異質だった。

「――え?貴族の娘の護衛?なんだよそれ」

トレジャーハンターという職業は、あくまで宝物の類を追い求めて様々な土地を行き来するのが目的だ。

それが、娘の護衛?
とんだお門違いだと、朱里が眉をしかめるのも当然のことだった。

「俺にだってトレジャーハンターのプライドってもんがあんだぞ。なんでそんな傭兵みたいなことしなきゃならねぇんだ。その話パス」



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