聖夜の贈り物





吹雪で世界が真っ白に染まった山中に、二つの影が見えた。

一つは濃い緑のコートの裾を激風にはためかせ、もう一つの影は紅色の鮮やかなスカートを後ろにバタバタ揺らしている。

二人は殴るような向かい風に逆らって、少しずつ前進を続けているようだった。


「…い、……か!」

前を行く濃緑のコートのほうが、後ろの一人を振り返り何か叫ぶが、風にかき消されてその言葉は聞き取れない。

後ろの人物は、顔の前に手をかざして、必死に風に歯向かおうとしてはよろけている。

その手をしっかと握ると、コートの人物は再び雪の積もった地面を踏みしめ始めた。



雪の混じった強風が、鼓膜をビリビリと揺さぶる。
先ほどから冷たい雪の粒をじかに受けている顔は、感覚すら失ったようだ。

目の前に広がるのはただ白い景色ばかりで、実を言うと今自分たちがどこを歩いているのかも定かでない。

前を行くコートの人物は焦りから、唯一温もりを感じる後ろの人物の手を強く握り直した。

まさか、こんなことになるとは…。

後悔しても、この状況ではどうにもならない。
今はただ、前に進むしかない。

わずかに疲れを感じさせる足に力を込めて、コートの人物は前方を見据える。
雪の滴が容赦なく目に当たるが、それでも人物は前を向き続けた。


それが功を奏したのか、およそ数分後、うんざりするほど白一色の景色に、初めて違う色が飛び込んできた。



真っ白い景色の中二人が見つけたのは、一軒の小さな山小屋だった。
木造の小屋を認めた瞬間、コートの人物はほとんど後ろの人物を引きずるように駆け出したのだった。




「――ぶはぁ!」

半ば逃げ込むような形で、二人は中に駆け込んだ。

その瞬間、自分たちの周りを吹き荒れていた風がやみ、耳が吹雪の轟音から解放される。

「ふぅ、助かったー」

コートの人物、朱里はすっかり雪まみれになったコートやズボンを手ではたいた。
雪の積もった頭を犬のようにプルプル振ると、その周辺に雪が舞う。

「はぁはぁ、良かった…です」

側では小夜が、膝に手を当て息を整えている。

その頭の雪を何気なく払ってやりながら、朱里は改めて小屋の全景を見回した。

ただ全景と言っても、小屋の中はあまりに狭い。
5人も入れば、間違いなくいっぱいになってしまうだろう。

置いてあるのも、申し訳程度の小さな机に一枚の毛布、そして簡易的に取り付けた暖炉が一つのみ。

もっとも異常に狭いので、それに朱里と小夜が加われば、室内はすっかり満杯状態だった。

「まぁ、吹雪がしのげるだけ有難いか」

あのひどい吹雪の中、この小屋を見つけられただけいいほうだ、贅沢は言うまい。

うん、と気を切り替えると、とたんに寒気に襲われた。

雪と風で冷えた体を温めるべく、朱里は暖炉に急ぐ。



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