冷静になれば、自分の馬鹿な行動に呆れ返るばかりだった。
あれでは暗に小夜を責めているようなものだ。

コートのポケットに両手を突っ込んで、足元を睨みつける。

切り裂くような冷たい夜風に、うっと首を縮めたときだった。


「朱里さん、待ってください!」

宿から漏れ落ちる灯りを背負って、小夜らしき影がこちらに駆けてきた。

あまり顔を合わせたくはなかったが、ここで逃げ出してしまえばさらに自分がみじめになるだけだ。
腹をくくって足を止める。

小夜は腕に何か大きな荷物を抱えているようだった。

あれでは自分の足元さえ見えていないに違いない。

嫌な予感がして、案の定その直後、小夜が派手に転倒する。

白い息を吐きながら、朱里は相棒の元へ近づいていった。



「何してんだよ、お前」

朱里の出現に、小夜が地面に膝をついてへらりと笑う。

「足がもつれちゃって…」

「そんな大荷物持って走るからだろ」

腕を掴んで引き上げると、小夜が胸に抱いた布の塊を差し出してきた。

「よかったらこれ、使ってください」

ランタンの淡い光の下に、ブランケットのチェック柄が浮かび上がった。

寒がりな朱里を気遣ってわざわざ持ってきてくれたのだろう。
小夜らしい優しさに、胸の奥がこそばゆくなった。

「…これ渡すためにわざわざ追いかけてきたのかよ」

お前のミスを責めるみたいに出ていった俺なんかのために、と心の中でつけ足すと、小夜がどこか照れたような笑みを浮かべた。

「いえ…本当はこれを渡したくて」

そう言って懐から取り出したのは、手のひらサイズの円い箱だった。

目を丸くする朱里に、小夜が続ける。

「さっきは皆さんの前で渡せなくてごめんなさい。朱里さんにはどうしても、二人きりのときに渡したくて…」

言った後で、恥ずかしそうにその視線が下に流れた。
長い睫毛が目元に影を落とす。



さすがの朱里もそこまで鈍感が過ぎるわけではない。

自分に差し出された物が何なのか気づいて、頬が熱くなるのが分かった。

「べ、別に俺はあいつらと一緒のときでも全然構わなかったけどな…!」

照れ隠しに言う朱里に、小夜が首をぷるぷると横に振って答えた。

「いいえっ、それじゃ私が嫌なんです…!わがままを言ってごめんなさい。でも朱里さんは特別だから…」

「と、特別?」

思わずどもってしまう。
小夜が小さく笑って頷きを返した。

答えを求めて、知らず知らずのうちにその小さな唇を見つめてしまう。

オレンジ色の光を大きな瞳に湛えて、小夜が朱里を見上げて言った。

「…朱里さん、世界で一番大好きです。私の気持ち、よかったらもらってください」

ランタンの灯りの下、ほのかに赤く染まった頬を緩めて小夜がふわりと微笑んだ。


灯りの魔法だろうか。

見慣れているはずの小夜の笑顔が普段以上に可愛く見えて、胸の奥がきゅうっと悲鳴を上げた。


プレゼントの箱を受け取ると、動悸を誤魔化すように箱を開ける作業に専念するふりをする。

そして。


箱の中から現れたのは、大きなハート型のチョコレートだった。

それも、真ん中から見事に真っ二つに割れた状態の。


prev home next

4/5




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -