うつむいて顔を上げない小夜に、謝罪のつもりで朱里は口を開く。

「…小夜、お前の今日の衣装」

似合ってるぞと、慣れないながらも褒めてやろうとしたところで、

「…そうそう。朱里にもこれ…」

まったく空気を読む気もないジライが、懐から何かを取り出して朱里に手渡してきた。

「何だよこれ」

内心早く出ていけよと舌打ちをしつつ、渡された白い布を広げる。

「あっ!」

朱里より早く、小夜が歓喜の声を上げた。

「…うわ」

朱里からも違う意味での声が漏れる。

ジライから渡されたのは、ナース姿の小夜と対をなす医者の白衣だった。
ご丁寧に眼鏡と聴診器というオプションまで用意されている。

「…せっかくだし、それを着てお祭りに出かけるなり、二人だけで部屋でお医者さんごっこするなり、まあ楽しんだらいいよ…」

さりげなく問題発言を混じえながら、ジライは登場したときと同様に、手をヒラヒラ振りながら部屋の扉を開く。
そこで一旦二人を振り返ると、

「…今日の詳細は事細かに教えてね。任せたよ…」

「はいっ、お任せください!」

一体何の詳細なのか尋ねることもせず、律儀に小夜が敬礼してみせる。

扉が閉じられる瞬間、隙間から「…グッドラック」と無駄にキメた声で親指を立てて、ジライという名の変態は去っていった。

朱里は自分の腕の中にある衣装を抱いて、ただただ呆然と扉を見つめる。

あいつは一体何だったんだ。
つうか、一体何を頑張れというのか。

そんな朱里に満面の笑顔を咲かせた小夜が声をかける。

「じゃあ朱里さん、それを着て一緒にお祭りに行きますか!」

朱里の顔を下から覗き込むように見てくるあどけない瞳には、期待が満ち溢れていた。

「…いや、その格好でさすがに外は」

やばいだろという言葉は寸前で飲み込む。
せっかく嬉しそうな小夜に、これ以上余計なことは言いたくない。

「それじゃあ、お医者さんごっこにしますか?」

これまた無邪気に笑うナース姿の小夜。
この世間知らずの姫様は、ジライの言うお医者さんごっこの真意など知りもしないのだろう。

いっそのことこのまま、本当のお医者さんごっこってやつをこいつに教えてやろうか。
こいつも少しは世間の厳しさというものを学んだほうがいいのではないか。

真剣な顔で悩みつつ、とりあえず脇に抱えていた白衣に袖を通す。
眼鏡と聴診器も仕方ないので装着して、「朱里さん朱里さん」と弾んだ声音で呼んでくる小夜のほうを向いたときだった。


「お注射しちゃいますよっ」

朱里の葛藤になど気づきもしない小夜が、えいっとその頬を人差し指で軽く突いてきた。
何がそんなに楽しいのか、ふふっと声に出して笑っている。

(…そんな恰好でそんなことして、煽ってんのかこいつは)

理性と本能にメーターがあるのなら、今この瞬間間違いなく本能のほうに針は大きく傾いただろう。

押し黙る朱里の様子に疑問を抱くこともなく、小夜はさらに無防備にこちらを見上げてくる。

「朱里さんのお医者さん姿、とっても素敵です!」

そう言って溶けそうな笑顔を向けられれば、本能のほうに針が振り切れるのも至極当然なことで。


小夜の両肩をがしっと掴むと、

「よし、分かった。お前のごっこ遊びに付き合ってやる。服を脱げ!」

真剣な表情で詰め寄る朱里。
突然のことに、小夜は目をパチパチさせている。

「ふ、服ですか?」

若干朱里の迫力に圧されているようだ。
朱里はなおも続ける。

「そうだ。服を着てたら診れないだろ」

こうなったらやけくそだ。
ジライの望みどおり、行けるところまで行ってやる。
意を決した暴走気味の朱里が、鼻が触れそうなほどの至近距離で小夜に詰め寄る。

「だから服を脱げ!」


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