「じゃーん!」

時は昼時。

いきなり前置きもなく朱里の部屋に登場したのは、この時期お馴染みの恰好をした相棒の小夜だった。



毎年この日の恒例行事である小夜の仮装。
健気に日々の少ない小遣いを貯めて、この日のために衣装を買っているらしく、毎年趣向を凝らして様々な姿で朱里の前に現れる。
本人が楽しむのはいいのだが、時にそれを朱里にまで求めてくるため、毎年このイベントが近づいてくると色々な意味でソワソワしてしまう。

もっとも色々な意味とは言うまでもなく、小夜の仮装姿をこっそり楽しみにする気持ちも含まれていたりするのだが。

さて、今年はどんな衣装かな。

のんびり余裕の笑みさえ浮かべながら後ろを振り返った朱里は、小夜の姿を視界に捉えた途端、笑顔のまま固まった。

「今年はいつもより頑張ってみました!」

身動き一つしない朱里の前まで来て、ルンルンと嬉しそうに回ってみせる小夜。
朱里の変化には気づく様子もない。

「今年は衣装に自分で手も加えてみたんですよ。赤いインクを床にこぼしちゃって大変でしたけど、なんとか形になりました!」

そう言って衣装のあちこちに散った血の染みを指さしてみせる。

「朱里さんは──」

笑顔で朱里を見上げた小夜の言葉の続きは、がしっと両肩を必死の形相で掴んだ朱里によって遮られた。

小夜を見下ろした朱里がなんとか口を開く。

「お、お…お前…」

が、大した言葉にはなっていない。
首を傾げる小夜に詰め寄ったまま、朱里は大きく息を吸うと、

「その格好はさすがに駄目だろ…」

なんとかそれだけ言葉にして、頭を垂れた。


純白の天使とはよく言ったものだ。

ワンピース型の白い衣装は、小夜の体のラインに沿って色々な部位を隆起させながら緩やかな曲線を描いてその体を包んでいた。
それだけでも朱里にとっては問題だったが、さらに問題なのがその丈の長さだ。
普段は隠れている小夜の膝から上が、かなりの部分朱里の前に晒されてしまっている。腿の途中まである白いストッキングを履いているため、肌のすべてが露わになっているわけではないが、むしろそれが逆に視覚を刺激してくる。
その隙間からのぞく腿のきめ細やかな質感が容易に想像できて、朱里は勢いよく天井に頭ごと視線を逸らした。

「ナースさん、お気に召しませんでしたか?」

下から少しトーンの落ちた小夜の声がした。

(そんなナースいてたまるか!)

歯を食いしばって叫びそうになるのを堪える。
小夜に悪気があるわけではない。こいつを叱るのはお門違いだ。

「駄目というか…俺が駄目になるというか…」

苦し紛れにごにょごにょ呟くが、それでこちらの心意が小夜に伝わるわけもない。
案の定困ったように小夜が首を傾げた。

「朱里さんが駄目に?とは、一体どういう?」

ちらと小夜に視線を戻すと、ぴったりと体にフィットした衣装からはっきり窺える胸の形が目に飛び込んできて、さらに体温が急上昇する。


(…もう駄目だ!)

自分の中で暴れる野性のままに、小夜の細い肩を掴んだ手に力を込め華奢な体を床に押し倒すと、朱里はその上に馬乗りになった。
目をぱちくりさせて朱里のされるがまま横たわった小夜に許しを乞うこともなく、朱里は隆起した胸に手を這わせ──



なんてできるほど俺には勇気も甲斐性もないんだよ!


ちくしょうと胸中で力の限りに叫んで、朱里は小夜の肩に置いた手を必死の思いで引き剥がした。
大きく深呼吸。
幾分冷静さが戻ってくる。

「朱里さん、ご気分が優れないのですか?」

明らかに普通でない朱里の様子に心配そうに手を伸ばす小夜を制して「いや、大丈夫だ」と応えるも、視線はずっと小夜から逸らされたままだ。

「あの、やっぱり私が何かお気にさわることを…」

ひたすら視線を背けたままの態度に、小夜が遠慮がちに後ろへ一歩退いた。

「私、部屋に戻ってますね。朱里さん、ごめんなさい」

律儀にぺこりと頭を下げる小夜。

頭の中で素数を数え始めていた朱里は、ワンテンポ遅れてそれに気づく。

立ち去ろうと背中を向けた小夜の腕を咄嗟に掴んで、

「あー、別に怒ってるわけじゃなくてだな」

引き止めた後で、なんと言えばいいのか詰まってしまう。
お前の恰好があれすぎて直視できないだけだから、とは言えるわけもない。
だがこのまま視線をあらぬほうに向けたままでは、話がまったく進まない。


そんなときタイミングよく部屋の扉がノックされた。



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