「…危うく壊されるところだったよ…」
夜もずいぶん更けた頃、外から見える宿の窓のうちただ一つだけ、明かりの灯った部屋があった。
言わずと知れた、ジライの部屋である。
彼はベッドの上で愛用のカメラをから拭きしながら、ぶつぶつと何事かを呟いていた。
「…今日の苦労が全部水の泡になるところだった…。危ない危ない…」
そんな彼の口元は先ほどからずっと笑みを刻んでいる。
ジライは目前にカメラを掲げると、さらに口の端を緩めた。
「…今夜は最高のショットが撮れたよ…」
顔をカメラから、自分の隣へと移す。
そこには数枚の写真が広げられていた。
不機嫌そうに顔を歪めた、吸血鬼姿の朱里の写真。
そして…。
「…ふふ…」
たまらずといったふうに、ジライの口から声が漏れた。
見た目からは分からなかったが、このとき彼は相当興奮していた。
これは永久保存版用のアルバムに貼っておかなくちゃ…。
そう呟いて写真を眺めるジライにとっては、時間の経過など気にもならない。
結局彼はその後、窓の外が明るくなるまで写真を眺め続けるのだった。
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