思わぬ問いかけに、俺は片言でその言葉を繰り返す。
すると何を勘違いしたか、ジライが言葉の意味を説明しだした。

「…夜這いというのはね、夜も深まった頃に男性が女性の…その逆もしかりなんだけれど…まあ異性の元へ忍んでいくことを言うんだよ」

「…………」

はっきり言って、この男の口からはなるべくなら聞きたくない言葉だった。

当然俺も健全な男子だから、そういう話題に興味がないわけではない。が、それはまともな相手あっての話だ。
何が悲しくてこんな変態の化身から色気話を提供されねばならない。

明らかに引いている俺の様子にも気付かないジライは、そのままこの話題を続けていくようだ。

「…朱里もずいぶん大きくなったわけだし、当然夜這いの一つや二つは経験済みなんだろうね…」

一人で楽しそうに頷いているジライに、俺は溢れんばかりの侮蔑を込めた視線を送った。
が、一人高揚しているジライには無意味だったらしい。

「…僕も若い頃はよく…」

耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。もしくは叫び出したい。
これは新手の嫌がらせだろうか。
この変態は俺の耳を汚して、それを楽しんでいるのかもしれない。


「――ということで、朱里…」

俺が必死で耐え忍んでいる間に、いつの間にか話は進行していたらしい。
ジライがテーブルに両肘をつき、顔の前で両手を組んでこちらに顔を向けた。

「…今夜は絶好のチャンスだよ。だから、この僕が朱里のために助力してあげよう…」

そう言ってジライは不気味に笑った。
本人はきっと優しく微笑んだつもりに違いない。
ジライの目の前に鏡を置いてやりたい気持ちになった。

とりあえず話は核心に辿り着いたらしい。ようやく俺は口を開く。

「絶好のチャンスって何がだよ」

「…おや、朱里は今日が何の日だか知らないのかい…?」

沈黙を肯定と受け取ったのか、ジライが続けた。

「…今日はハロウィンなんだよ。言葉は聞いたことくらいあるだろう?」

はろうぃん、と俺は口の中で反芻する。
確か去年の今頃同じようなことを小夜が言っていた気がする。

なんでも、この日の夜には仮装していろんな家に菓子をもらいに行くとか行かないとか。
とにかくそんな感じだったはずだ。

「小夜から聞いたよ。去年はあいつが魔女の格好して、俺のとこに菓子ねだりに来たんだ」

「…魔女の格好…」

にたり、とジライの口元が急に緩む。
今ジライが何を想像しているのか容易に予想がついて、俺は奴の首を絞めてやりたい衝動に駆られた。

「…で?なんではろうぃんの夜だと、絶好のチャンスってことになるんだよ」

ジライの脳内に描かれているだろう魔女姿の小夜の姿を一刻も早く消し去りたくて、俺は必死に話の先を促した。

「…ああ、それはね…。今夜だったら簡単に、イベントを理由に仮装して相手の部屋を訪れることができるじゃないか…。部屋に入ってしまえば、後はこっちのものだからね…」

何がこっちのものだとか、そういう質問はあえて避けておいた。先が目に見えているからだ。

代わりに俺は別の質問を投げかけることにする。

「さっきさ、助力するって言ってたけど、どう助力してくれるわけ?」

ジライの顔がわずかに輝くのが見て分かった。

異常に長い前髪のせいで完全に目元は隠れているのに、なぜこいつはこうも表情に色をつけられるのか不思議でならない。



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