「お前、いつまで探してんだよ!」
地面に手と膝をつけた状態の小夜に駆け寄って、朱里は腰に手を当てそちらを見下ろした。
不機嫌そうに口をへの字に結んでいる。
すると小夜が今にも泣きそうな顔で、朱里を見上げてきた。
「しゅ、朱里さん…どうしたらいいんでしょう。さっきからネックレスが見つからないんですっ…。探してるのに、全然っどこにも…」
朱里が自分の元へ来てくれたということで感情が高まったのか、今まで耐えていた涙が溢れだしそうになる。
そんな小夜の様子に、朱里も急に怒りが半減したようだった。
眉間に寄せられた深いしわが、急激に元の状態に戻っていく。
「今日歩いた場所を全部探して回ったのに、どこにもなくてっ…ここにあると思ったのに…」
土まみれの手で目元をこする小夜の側に、すっかり怒気の抜けた朱里が膝をついた。
なんとか涙を耐えてこちらを見る小夜の顔は、汚れた手で無闇にこすったせいで土がついてしまっている。
朱里は苦笑しながら、小夜の頬を親指の腹で拭ってやった。
そして立ち上がり、再び腰に手を当てる。
「仕っ方ねぇから、俺も一緒に探してやるよ。宝探しは得意だしな」
ちらと見た小夜の顔は、希望を見つけたときのように輝きを取り戻していた。
しかしなんでこんなに小夜のやつ必死になってんだろう。
たかが、安物のネックレス一つだってのに。
不思議に思いながら、朱里は手に持った簡易ランプを地面に向けた。
ほのかな橙色の光が地面を照らす。
小夜を迎えに行くのに暗いと不便だから、という理由で持ってきたランプだったが、まさかこんな目的で使うことになろうとは、朱里自身想像もしなかった。
つくづく自分はこいつに甘いみたいだ、と横で必死に地面をのぞき込んでいる小夜の横顔を見て朱里は思う。
無理にでも連れ帰ればいいだけの話なのに、なぜ自分はこうして一緒に探すということまでやっているのだろう。
以前の自分なら確実に、強制連行もしくは放って帰宅という行動に出たはずなのに。
昔と今で、一体何が違うんだろう。
簡易ランプ片手に今日歩いた通りを片っ端からうろついたが、結局目的の物は見つからず、いつの間にか二人は再び最初の街灯の下に戻ってきていた。
「…こんだけ探してもないってことは」
朱里があごに手を当てて、不安そうにたたずむ小夜に目をやる。
「誰かに拾われたか、もしくはカラスにでも巣に運ばれたかな。あいつら光りもんには目がねぇからな」
「そんなっ…」
「とにかく、これ以上探しても無意味ってことだ」
きっぱりと言い放って、朱里は上を見上げた。
真っ黒な空にはもうすっかり星の海が広がっている。きっとずいぶん時間も遅いことだろう。
「分かったら、そろそろ宿に戻ろうぜ。まだ夕飯も食べてないんだし、急がねぇと食堂閉まっちまうぞ」
視線を元に戻すと、ちょうど小夜が地面に置いたランプを持ち上げるところだった。
「何してんの、お前」
「私まだ探しますからっ」
「いや、だからもう見つかる可能性ないって。俺らの手の届かないとこにあるんだろ、きっと」
「っそれでも、探さなきゃだめなんです!私、また通りを回ってみますっ」
光を灯したランプを握りしめ駆け出しかけた小夜の腕を、朱里は慌てて掴んだ。
「待てって!なんでお前そんなにあのネックレスのこと…」
言いかけたときだった。