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街の中心地、今ではすっかりどの店も閉じられた静かな通りに小夜はいた。

「確かこの辺りで旅の買い物をいろいろしていて…」

地面をのぞきこむように前かがみで歩く小夜の姿に、家路へと帰る人の目が物珍しそうに注がれている。

ただ誰も小夜に声をかけようとはしない。
もう時刻も時刻だ。
宵闇がせまり、先ほどよりも明らかに周りは薄暗い幕に覆われている。

「そう、ここでおまんじゅうを買ったときにはまだ、ネックレスはあったんですよ!」

探し物をするには難しい状況の中にあっても、小夜の足が止まることは決してなかった。

新たに可能性のある場所を求めて、小夜は闇に覆われる寸前の街を走り去っていった。


*****



同じ頃、一人宿の部屋に戻った朱里は、荷物を床に投げ捨てベッドにうつぶせに倒れ込んでいた。

枕に顔を押しつけつつ、重いため息をひとつ。

「はぁー…」

ちらとすぐ横の窓を見上げれば、その向こうには紺青の空がのぞいている。
程なくすれば完全に、街は漆黒の闇に飲み込まれるだろう。

「はぁー…」

さらにもう一つため息。

そのまま口許を枕に埋めたまま、朱里は怒ったように宙を睨みつけた。
部屋に沈黙の幕が落ちる。

「…………」

じっと体をベッドにうつぶせた状態で、朱里はもう一度右手の窓のほうに目だけを向けた。

もちろん、空は先ほどと同じく濃い紺色で、微塵の変化もない。

そのまま目を部屋の中に戻して、再び身動き一つせず何もない宙を睨む朱里。


しばらくその状態が続いたが、あるとき突然その体ががばっと起こされた。

「ああ、もうっ」

ベッドから下りた朱里は、コートを掴むと乱暴に足音を立てて出口へと向かう。

「あんの馬鹿!!いつまで探してるつもりだよ!」

怒りも露に眉間にしわを寄せ、バタンと大きな音を立てて朱里はそのまま部屋を出ていった。

朱里が部屋に戻ってきてから、たった5分の間の事であった。


*****



「うぅー、ここにもないです…」

すっかり闇に包まれた通りから小夜の声が聞こえる。

わずかばかりの光を灯す一本の街灯の下、その姿は地面にうずくまって何やら動いているようだった。

「でも、別の場所はもう探しましたし…もう後はここしか」

地面についた膝で前に進んだり後ずさったりを繰り返しながら、小夜は手の平で土の上をすって探している。

街灯があると言っても、やはり地面は暗く視界も狭い。
今や、手の平の感覚だけが頼りだった。

「どこに行ったんですか、私のネックレス…」

朱里さんにもらった唯一の物なのに、と胸元に手を当てると、その胸の辺りがきゅうっと締めつけられる思いがした。

恥ずかしそうに手渡してくれた花びらのネックレス。

離れていたときも、私に朱里さんとのつながりを感じさせてくれた、かけがえのない物なのに。


もう見つからないのだろうかと思うと、目の奥が熱くなって視界が歪む。

地面についた手にぎゅうっと力を入れて、小夜が溢れそうな涙を固く目をつむって我慢したときだった。


「おい、小夜っ!」

こちらに走ってくる一つの影が、揺れる視界に映った。



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