「あ、いた!おーい、小夜ねえちゃーん!」


暗闇の中から聞き覚えのある声が聞こえた。

目を凝らして見ると、幼い少年がこちらに向かって手を振りながら駆けてきていた。
その後ろにはさらに幼い少年二人の姿もある。

「……げっ」

反射的に手を顔の前で組んで構えた朱里に、容赦なく三人の少年が襲いかかってくる。
そして案の定、地面に倒される朱里。

その腹の上に乗った少年たちは、ぺちぺち朱里の頭を叩いた。

「また、小夜姉のこといじめてたでしょ。何度言ったら分かるの?女の子をいじめちゃいけないんだよ」

「…別にいじめてねぇって。それにお前らのほうこそ、この登場の仕方はやめろって何度言ったら分かるんだよ。第一なんでここにいる…」

身動きが取れず諦めたように呟く朱里に、少年たちはにひっと歯を見せて笑みを返すのだった。




言うまでもなく少年たちの正体は、朱里の師匠と行動を共にしているトム、キム、セム三兄弟である。


朱里の腹の上で跳ねたり跳んだりして遊ぶ兄弟を横目に、長男トムが側にいる小夜の元に駆け寄ってきた。

「僕たち小夜姉のこと、ずっと探してたんだ」

言いながらごそごそと自らの懐をあさる。

「探して?どうかなさったのですか?」

なんだろう、と大人しく待つ小夜の目の前に思いがけない物が姿を現した。


細く繊細な鎖の先に、ゆらゆら揺れる小ぶりの花びら。

その中心にはめられた赤い石が、街灯の光を反射して鮮やかに輝く。

「あっ」

それはまさに、今までずっと小夜が探し求めていたものだった。

「わっ私のネックレスっ…!!」

思わず叫んだ小夜の声に、朱里の上で踊っていた下の兄弟たちが後ろを振り返る。
ただ、朱里だけは力尽きたように、ぐったりしていたが。

「どっどどどうして!?これをどちらでっ…」

戻ってきた自分のネックレスとトムの顔を交互に見ながら、小夜は混乱まじりの声で尋ねた。

いつの間にか下の兄弟たちも兄に並ぶように、小夜を囲んで立っていた。

「たまたまだったんだよ。人の多い大きな通りで、セムがボール落としちゃってさ。すっごく泣いて暴れるから、仕方ない、探そうってことになって」

「うんっ、そうなのっ」

無邪気に笑う三男セムに苦笑を返して、トムは言葉を続けた。

「それで、ボール探してたら、道になんだか見たことのあるネックレスが落ちてたからさ、あれ、小夜姉がこれと似てるの付けてたなって何気なく拾ったの。そしたら、ジライが『…さっき朱里らしき子を見たよ…』って教えてくれたから、じゃあこれは小夜姉の持ち物に間違いないと思って」

「…それで私を探して下さってたんですか、ずっと?」

小夜の問いに、三兄弟はそろって笑顔でうなずいた。

「だって、小夜姉の大事な物なんでしょ?」

「早く返したほうがいいもんね」

「もんねっ」

そのあどけない子どもたちの表情に、小夜は込み上げてくる涙を拭うこともせず、側に立つトムを思いきり抱きしめた。

「あ、ありがとう、ありがとうございますっ…」



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