「…ちくしょう…ちくしょうっ」
無性に目頭が熱くなって、まぶたを拳でこすりつけた。
来たときと同じように大通りを全速力で走り抜けていく朱里の姿を、通行人たちが珍しそうに振り返っていく。
どうしてこんなことになったんだろう。
そんな疑問は当に頭の中から掻き消えていた。
理由なんて端からなかった。
俺たちは親なしというだけで忌み嫌われ、アオも親がいないというたったそれだけのことで殺された。
理不尽だといくら叫んでも誰にも相手にされない。
ここはそんな街なのだ。
ようやく辿り着いた先には、崩れ落ちた廃屋と寂れた通りに佇む子どもたちの姿があった。
その中心で小夜は、虚ろな瞳をどこに向けるともなく立ち尽くしている。
もう二度と動くことのない冷たいアオの体を抱きかかえたまま。
「…ちくしょう…」
朱里は歯を食いしばってうつむいた。
閉じたまぶたから、今まで押し殺していた感情の粒が零れ落ちる。
“空の色と同じ名前を、僕のお父さんがつけてくれたんだって――”
ふいにアオの無邪気な声が聞こえた気がして、朱里は上空を仰ぎ見た。
しかしそこには血の色に似た空がべったりと横たわっているだけだった。
人は死ぬと体が重くなると聞いたことがある。
だがアオの小さな体は、生前と変わらず恐ろしいくらい軽いままだった。
アオは今、一人土の下で眠っている。
パチッと音を立てて爆ぜる薪の炎をぼんやり瞳に映しながら、朱里は膝を胸に抱き寄せるようにして地面に腰を下ろしていた。
炎が風で揺れる度に、彼の顔に深い陰影をつける。
暗い闇に包まれた森の中、薪を囲んでいるのは朱里だけではない。
子どもたちも炎の周りに座っていたが、誰一人として声を発する者はいなかった。
皆どこか疲れきったような顔で、それぞれ炎に視線を向けている。
不思議だった。
昨日まではあんなに子どもたちがはしゃいでいた森の広場が、今はこんなにも閑散と静まり返っている。
じっと押し黙ったままの朱里の隣には、小夜の姿もあった。
彼女も炎のほうに顔を向けてはいるものの、その視線はもっとどこか遠くを漂っているようだった。
炎に照らされた顔には、隠しきれない無数のアザが浮かんでいる。
再び薪がパチと音を立てて弾けたときだった。
それをきっかけにしたかのように小夜が小さく声を発した。
「…分からないんです」
朱里はのろのろと小夜の横顔を見る。
小夜はじっと炎を見つめたまま後に続く言葉を静かに紡いだ。
「ずっと考えてるのに、どうしても分からないんです。なんでこんなことになったのか…。あの人たちの目…同じ人間を見る目じゃなかった…。みんな同じなのに…同じ人間なのに、どうしてあんなことができるんですか…?」
最後のほうは声を震わせて、小夜は自分の肩を抱くように身を縮ませた。
炎を挟んでその向かいに座っていたチカがうつむきがちに答える。
「…そんな風に思ってくれる人は少ないんだよ。大抵はみんな僕らをゴミのように扱うし、それが当たり前だと思ってる。でもね、僕らだって生まれたときからこんな汚い格好してるわけじゃない…。みんな普通の家に生まれて、父さん母さんに囲まれてた頃だってあったんだ。だけど、そのときと今とで何が違うの?格好以外は何も変わってない。どうしてこんな仕打ちを受けなきゃいけないの…?」
そのままチカは顔を膝の間に埋めて押し黙ってしまった。
再び深い沈黙が降りる。