「――僕の父さんはね、この辺りじゃ名前の知れた発掘家だったんだ」
間をあけて設置されたロウソクの炎が照らす細長い通路に、二人分の足音が響いていた。
むき出しの岩壁に炎が人の影を描く。
自分の前を歩く少年の後ろ頭を見下ろして、朱里は曖昧に返事をした。
意識はどこか他を漂っているようで、落ち着きなく周囲を見回してばかりいる。
二人はさきほどからずっと地下の通路を進んでいた。
大広間や食堂などの空間に面する通路のもっと奥は、ほとんど人の手が入っていないようだ。
所々にのぞく横穴は部屋としての機能を持っていない。
「ここの地下って相当深そうだな。一体どこまで続いてるんだ?」
唯一人が設置したと見られる燭台に照らされた通路の遠くを眺めながら朱里が尋ねると、チカはわずかに後ろを顧みた。
「僕が知ってるのは、今僕たちが向かってる目的地までくらいだよ。地下の道はとにかく蟻の巣みたいに枝分かれしてるから、一番奥がどこなのかは僕にも分からない」
チカの言葉どおり、朱里が先ほどから気になっていたのは炎に示された道とは別の横道の多さだった。
横道には燭台が設けられていないらしく、どこも奥には闇がのぞいているばかりだった。
「このロウソクの道を辿っていけば、目的地には無事着けるのか?」
「うん、それは心配ないよ。ここのロウソクは僕が炎を絶やさないように毎日見回ってるから、途中で火が消えてることもない」
「毎日?」
朱里が怪訝そうに眉を寄せるのも不思議ではなかった。
二人が部屋を出て歩き始めてから、かなりの時間が経過している。
だがそれでもまだ目的地は見えてこない。
この相当長く薄暗い不気味な道をチカが毎日点検して回っているだなんて、一体この先にはどんなものがあるというのか。
朱里は先ほど部屋の中で、チカの口から直接聞いた言葉の内容を脳裏に反芻していた。
…宝が眠る遺跡、とチカは確かに言った。
あのときのチカの表情を思い起こせば、その言葉が決して嘘や冗談の類ではないことは一目瞭然だ。
ではやはりその遺跡とは、朱里と小夜が探している遺跡と同じものなのだろうか。
この町にあるとはっきり噂は広まっているのに、肝心の遺跡の存在を知る者は誰一人としていない。
だから朱里と小夜も、決定打を見つけられず四苦八苦していたのだ。
だがその遺跡がもし、人の暮らす町の下にあるのだとしたら?
一見すればどこにも見つからない地下に遺跡が埋まっているのだとすれば、遺跡の存在を見た者がいないことも頷けるのではないか。
しかもその地下に続く道は人々に忘れ去られた廃墟の家々の内にある。
考えれば考えるほど、今目指している場所が自分たちの捜し求めていた場所であるように思えて、朱里は一人緊張に息を飲み込んだ。
「――あっ、姉ちゃんにアオ!ちょうどいいとこにきた!」
小夜とアオが手を繋いで一階の空き部屋に上がると、チカを除いた子どもたち一同が各々笑顔を浮かべて二人を注目してきた。
その中でもクロウはにっと歯を見せて笑うと、駆け寄ってきて二人の手を握ってくる。
「これから俺たち秘密基地に行って遊ぼうってことになってるんだけど、もちろん二人も来るだろ?なっ?」
夜を思わせる黒い瞳に光の星を輝かせながら顔をのぞきこんでくるクロウに、小夜は思わず笑みをこぼしてしまう。
「そうですね。すごく楽しそうです」
「だろっ!アオも来るよな?」
満面の笑みでこくこく頷くアオを確認すると、クロウは二人の手を引っ張るように、皆が待つ入口付近へ走り出した。