「…やっぱりあの人、まだ諦めてなかったんだ…」

チカが発したのは、どこか諦めたような声音だった。

チカは嘲笑するような笑みを口元に浮かべると、今まさに離れんとしていた席に再び着いた。

朱里が促すまでもなく、一言はっきりと口にする。


「あの人、昔は僕の母親だったんだ」


不思議な言い回しだった。

母親と子どもという関係は、本当なら昔も今もないはずだ。

母親は永遠に母親であり、子どもは永遠に子どもという位置に属する。

朱里が怪訝そうな表情を浮かべたのに気づいたのだろう。
チカが再度言葉を改めた。

「確かに血は繋がってるし正真正銘僕を生んだ人だけど、でも今は何の関係もないってことだよ。僕はあの人に捨てられた瞬間からあの人の子どもじゃなくなった。そしてあの人も僕を捨てた瞬間から、僕の母親じゃない」

一度も躊躇うことなくチカは言い切った。
まるで全然大したことではないかのように。

過去はとうの昔に割り切った。
そんな表情さえ浮かべていた。

「でも…そうか。まだ…」

どう言葉を返せばいいのか悩む朱里を放って、チカは視線を机に向けたまま一人ごちるように呟いていたが、急に顔を上げた。

何かを決意した瞳が朱里を捉えてかすかに光を放つ。

「どうやら、あの人にここがばれるのは時間の問題みたいだ。あれがあの人に奪われるくらいなら、お兄さんに全部教えてあげるほうがまだいい」

静かに席を立つと、チカは唖然としたまま座っている朱里に困ったような笑みを向けて言った。


「――知りたいんでしょ?宝が眠る遺跡の在りか。教えてあげるよ」



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