「――ごちそう様でした」
子どもたちと朱里、小夜全員そろっての朝食は、あっという間に終わりを迎えていた。
とにかく子どもたちは遊び盛りだ。
早く遊びたい一心で食事をかき込み、結局小夜が食べ終える頃にはチカ以外の全員が食卓から離れていた。
よって今食卓に着いているのは、朱里、小夜、チカの三人のみとなる。
ただ席には着いていないものの、アオだけは例外で小夜の周りをうろついていたが。
「それじゃあアオくんっ、食べ終わりましたし、さっそく遊びに行きましょうか」
「うんっ!」
皿を下げ終えた小夜と手をつなぐと、アオは嬉しそうに二人で食堂から出ていった。
どうやら小夜が食事を終えるのを待っていたらしい。
アオは朝から妙にご機嫌だ。
普段からよく笑ってはいるけれど、今朝はそれ以上に輝かんばかりの笑顔を咲かせている。
とっくに食事を済ませてぼんやりしていた朱里は、二人が消えた扉を眺めながらかすかな笑みを浮かべた。
先ほど小夜から切り出された話を思い出したのだ。
“アオくんが大きくなったら、私たちの旅の一員になっていただいてもいいでしょうか?”
あまりに唐突な申し出だったため、そのとき朱里は思わず「は?」と聞き返してしまった。
小夜は必死に説明を続け、その隣で不安げに朱里を見ていたアオが、時折首をこくこくうなずかせていた。
話を聞けばなんということはない。
アオが大人になったとき、自分も一緒にトレジャーハンターとして連れて行ってほしい、という内容だった。
“それはいいけど…なんで大人になってからなんだ?別に今からでもいいんじゃねぇ?”
ちょうど朱里自身もアオと似たような年齢の頃に、師匠たちと旅を始めていたのだ。
その頃からトレジャーハンターとして生きていくための方法も教えられた。
年齢的には決して早くない。
要領を得るためにはなるべく早いほうがいいのだから。
しかし朱里の問いに対し、アオは慌てて首を振った。
“ううん、それはダメなの!今の僕じゃ二人の邪魔ばっかりしちゃうもの。だから、もっとずっと大きくなってしっかりして、僕が自分の名前も書けるようになったら一緒に連れて行って?”
そう言って首を傾げるアオに、朱里は笑いを漏らした。
“なんだよ、最後の。自分の名前って、練習すりゃ今すぐにでも書けるようになるだろ?”
“それじゃダメなの。名前だけちゃんとしても、僕は今の僕のままなんだもん”
要するに、今の自分ではたとえ“蒼”と本名を名乗っても、それに見合うだけの人格がないということらしかった。
“そんな深く考えなくてもさぁ”
しかし結局アオは断固として自分の意見を変えなかった。
“ちゃんとした大人になって、みんなに蒼って呼んでもらえるまで頑張るから!だからそのときは迎えに来てねっ”
無邪気な笑顔を咲きほころばせてアオはそう言ったものだ。
その会話を交わした辺りから、アオはとにかく嬉しそうな顔を浮かべている。
よほど朱里が旅の同行を了承したことが嬉しかったのだろう。
「…あいつの話からいくと、あと何年先のことになるやらだな」
頬杖をついて笑いをこぼしていると、それに気づいたチカが朱里に顔を向けた。
チカもまたずいぶん前に食事を終えていたのだが、食卓に着いたままだったのだ。
今までは朱里の斜め向かいの席に座って本を読んでいた。