夕食の準備をするという子どもたちについて奥の部屋に入ると、そこはどうやら食事処のようだった。
部屋の中心に置かれた長方形の木机に、皿やコップが所狭しと置かれてある。
目で数えてみると、その数八人分。
どうやら食事の用意をする際に、自分と小夜もしっかり頭数に含まれていたようだと気付き、朱里は一人ひそかに破顔した。
子どもの一団はそのまま食事部屋を素通りして、さらに奥の部屋に向かう。
思っていたよりも、地下の空間は広大らしい。
(一体どれだけ部屋があるんだ、これ?)
計り知れない地下空間の広さに興味は湧くが、今はとりあえずそんなことをしていても仕方ない。
また違う機会にでも、チカに案内を頼もう。
気を改めて、朱里は前に伸びる子どもたちの背に再び目を戻した。
最終的に足を踏み入れた部屋は料理場のようだった。
彼らの目的地でもある。
「みんなそれぞれナギの指示に従って動くんだよ。いいね、変な無茶とかしたら怒るからね」
チカの放った言葉の後半は、明らかにクロウに向けられたものである。
念を押すような視線を向けられて、クロウは半分憤慨、半分残念という面持ちでうなずいてみせた。
慌ただしく野菜を抱えた子どもたちが行き交い、活気づく料理場。
「ではっ!」
その空気に混じって小夜が大きく意気込みを上げ、腕まくりを始める。
「え、何?お前本気で料理手伝う気なのか?」
失礼極まりない朱里の言葉にも、笑ってうなずく。
「はいっ!初めての料理、頑張りますよ!」
「あ、おい…」
制止する朱里の声も振り切って、張り切った様子で小夜が料理台に駆けて行った、ほんの数分の後だった。
「あっ姉ちゃん危ないって!」
注意を促すクロウの声。
派手に何かが割れる音に続き、小夜の「あたたた…」という呻き声が漏れ聞こえる。
もちろん何が起こったのか料理台の様子は見えないが、朱里の脳裏でははっきりと小夜の引き起こしたアクシデントの展開が思い描かれていた。
「…だから言わんこっちゃない」
力なく首を振る朱里の隣では、チカがこれまた同じような表情で悩ましげに頭に手を当てていた。
「…お姉さんって、いつもああなの?」
「…まぁな。あいつがドジしない日なんて、今まで見たことねぇ」
「それは…相当だね」
「ああ、たぶんお前が思ってる5倍はひどいと思うぞ」
二の句が告げられず、二人の間を沈黙がよぎる。
それを破ったのは、またもや料理台からの音だった。
今度は何かが砕け散るような、空気を揺るがす破裂音が部屋中に響き渡った。
その原因は言わずとも知れる。
朱里とチカはほぼ同時にため息を漏らすのだった。