「なんか二人見てたらさ、母さんのこと思い出すんだよなぁ。俺もよくケガして母さんに手当てしてもらってたからさ」

なんとも無邪気な子どもらしい笑顔を浮かべて、クロウは鼻の頭をこすった。
どうやら鼻をこする仕草は、彼が照れ隠しのときにする癖のようだ。

「じゃあ今は、あたしがクロウの母さんね。いっつもケガの手当てするのあたしだもの」

えへん、と手を腰に当てて言い切る紅一点のナギに、クロウは明らかに渋い顔色を浮かべる。

「えー、ナギが母さんって俺やだー。手当てすんのと同じくらい、よく叩いてくるじゃん」

「何言ってんの、そんなことしないわよ!」

否定しながらも、ナギはクロウの背中を無意識にばしっと叩くのだった。




「はい、これでもう大丈夫ですよ」

元々小夜のために常備している絆創膏を、まさか自分が使うことになろうとは。

頬に貼られた絆創膏の感触を確かめながら、朱里はその情けなさを振り払うように勢いよく立ち上がった。

「まぁ元々こんなもん貼らなくても、別に大丈夫なんだけどな」

さらに強がるように言ってのける。

「いいえっ、怪我を甘く見たら駄目です!ばい菌が入ったら大変ですよ!」

「あー、はいはい」

適当に返事をしながら、両拳を振って力説する小夜の足元に何気なく視線を落とせば、目に入るのは血だらけの膝小僧。

「おっお前こそ自分の膝っ…!膝見ろ膝!どんだけ放置してんだよ馬鹿!」

どなって懐から絆創膏を取り出す朱里に、小夜は目をぱちくりさせた。

拳を握ったまま自分の膝を見やる。

「あれ、そういえば忘れてました…」

「阿呆っ!忘れてました、じゃねえ!人のことばっか気にしてねぇで、少しは自分の心配をしろっ」

文句を吐きつつも慣れた手つきで小夜の膝に絆創膏を貼る朱里をしげしげ見つめながら、小夜はぽんと手を叩いた。

何か思いついた、そんな顔をクロウに向ける。

「クロウくん、朱里さんはやっぱり私の子どもさんじゃないですよ」

「へ?」

「まるで私のお父様みたいです!」

素晴らしいことに気付いたというようにどんぐり形の瞳が輝きを発し、嬉しそうな笑顔がその口元にこぼれる。

「えー、父さんってそんなことするっけ?」

「はいっ!私のお父様はよくこうして、転んだ私の膝の手当てをして下さいましたよっ」

自分の父親を誇りに思う気持ちを押し隠すことなく告げる小夜だが、クロウはあっけらかんと言った。

「ふぅん、なんか変なのー」

「へ、変ではないですよっ!」


(あー、もうこいつらは…)

膝をついた朱里の頭上で、父親の何たるかを議論し合う小夜とクロウ。

決して父親になったつもりはないのだが、訂正するのも面倒くさいので、朱里は無言のまま小夜の膝に絆創膏を貼っていった。


ただ、父親みたいと言われ、なぜか無性に悔しい思いがしたので、少し乱暴に膝を叩いてやったが。

「はい、完了」




「じゃあ、仕事が終わった係は、みんな料理を手伝ってあげて。ナギとフウは料理係なんだから中心になって指示するんだよ」

すっかり憩いモードになった場を仕切りなおすように、チカが機敏な動きで子どもたちに指示を飛ばした。

よくよく考えれば、料理はまだまったく完成に到っていないのだ。
肝心の水がないため、途中でストップせざるをえない状況になっていたからである。

「でも、チカ」

口を挟もうとしたナギに、すかさずチカが告げる。

「水なら奥の貯水槽から運んでおいたよ。いざってときのために蓄えてた水だけど、こういうとき以外なかなか使う機会もないしね」

「さっすがリーダー!抜け目ないねぇ」

からかうようにクロウがチカの肩を叩いた。

その悩みの欠片もなさそうな無邪気な笑顔に、チカも呆れたように苦笑を浮かべる。

「まったく…クロウは、ほんとに得な性格してるよ」

言葉の意味が掴めず首をかしげるクロウは、つい先ほど起こった公園での出来事など綺麗さっぽり忘れましたというくらいに、いつもどおりののん気顔でチカを見つめているのだった。



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