畑仕事に関しては完全ど素人の朱里は、子どもたちに助言を求めた。

その結果。

チカの場合は、

「お兄さんのやりたいことをやればいいよ」

そう言ったきり、こちらを見もしない。

仕方ないのでクロウに訊くと、

「穴掘ろう、穴!そんで誰が落ちるか試そうぜ!」

完全にクロウは仕事をしていない。

側にいたキースに尋ねても、

「え、畑仕事もしたことないの?兄さんってどっかの坊ちゃん?」

馬鹿にされたように、ふふんと笑われただけだった。

ナギなら、と助けを求めると、

「とりあえずー…えーっと、このミミズどっかにやってほしいな」

ミミズを一匹遠くに放り投げさせられた。

フウ、この際お前でもいいから…。

「ん〜?おなかすいたの?」

やっぱり予想通りの答えが返ってくる。

藁にもすがる思いでアオの側へ。
頼む、俺に教えてくれ…!

「――えっとね、こうやって草を抜いたりするんだよ。…あっ、間違えて野菜抜いちゃった…。お兄ちゃん、どうしよう」



(…助言でもなんでもねぇ…。こいつら教える気、ゼロだ…)

まったく意味を成さない子どもたちの助言は、仕方ないので無視した(アオの抜いた野菜はなんとか埋め直した)。

とりあえず朱里はため息をついて、小夜やチカの見よう見真似で、畑仕事を開始したのだった。




「おっし、こんな感じだな」

コートを脱いで半袖の黒シャツ姿になった朱里は、額に浮いた玉の汗をぐいっと腕で拭った。

やってみれば大したことはない。
土を耕し、草を抜く。この繰り返しだ。

畑仕事の楽しさに触れ黙々と作業を続けるうちに、いつの間にか太陽は空の頂きに昇っていた。

チカの声が響く。

「みんな、休憩していいよ」


****



畑の近くの木の根元に朱里は腰を下ろした。

木陰になっているため日向より気温が低いが、動いて汗をかいた体にはちょうどいい。

時おり、心地よい風が朱里の頬を撫でていく。


休息に浸る朱里とは反対に、子どもたちは未だ元気に遊び回っていた。

それをぼんやり見るともなく眺めていると、小夜が朱里の隣に座ってきた。

「朱里さん、お疲れさまです」

「ああ、お前こそな。ずいぶん張り切ってるじゃん」

いつもこれくらいの手際の良さがあればいいんだけどな。

その思いは自分の胸の中にだけ止めておくことにする。

「えへへへ、つい昔を思い出してしまって」

朱里の思いも知らず、小夜は照れたような笑顔をこぼすと、こちらに向かって駆けてくるアオに軽く手を振ってみせた。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんっ、おつかれさまっ」

「おう」

朱里が避けてやると、アオは嬉しそうに二人の間に腰を下ろした。

「アオくんも頑張ってましたね。お疲れさまです」

小夜がアオの鼻の頭についた土を拭ってやりながら言うと、アオも元気よくうなずく。

「あっ、そうだ!あのね、二人の名前教えてほしいの」

「名前?俺はともかく、お前まだ教えてなかったのかよ。長いこと一緒に遊んでたのに」

小夜のほうを見ると、小夜自身今まさに気づいたというふうな表情で、口に手を当てていた。

「そうでした!すみませんっ、すっかり自己紹介を忘れてました!えっと、では改めまして…私は小夜と言います。朱里さんの相棒をしているんです」

「相棒?」

「はいっ。朱里さんはトレジャーハンターなんです。今回もこの町に来たのは、宝物の情報が…入って…」

嬉しそうに語り出した小夜の顔は、途中で笑顔を失ってふいに暗い色をのぞかせた。

その理由に思い当たり、朱里は「小夜」と声をかける。

気にすんな、と小さく首を振ってみせると、小夜がうなずくのが分かった。

それを確かめて、朱里はアオに顔を戻した。

「そんで、俺は朱里。小夜と国を回って旅してるんだ」

「へええ、旅かあ。いいなぁ、僕もいろんなところに行ってみたい!」

アオが無邪気にはしゃぎながら朱里と小夜の顔を交互に見た。
小夜が微笑みを返す。

すると、アオは何か思い出したかのように両手を合わせた。

「あっ、そうだ!僕の名前はねっ」

「アオ、だろ。前に自分で名乗ってたよな」

途中で制して朱里が言うが、アオはぷるぷる首を左右に振った。

「ううんっ、そうだけどそうじゃないんだよ。それは皆が僕を呼ぶときの名前。僕の名前本当は、蒼(あおい)って言うんだ」


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