畑仕事に関しては完全ど素人の朱里は、子どもたちに助言を求めた。
その結果。
チカの場合は、
「お兄さんのやりたいことをやればいいよ」
そう言ったきり、こちらを見もしない。
仕方ないのでクロウに訊くと、
「穴掘ろう、穴!そんで誰が落ちるか試そうぜ!」
完全にクロウは仕事をしていない。
側にいたキースに尋ねても、
「え、畑仕事もしたことないの?兄さんってどっかの坊ちゃん?」
馬鹿にされたように、ふふんと笑われただけだった。
ナギなら、と助けを求めると、
「とりあえずー…えーっと、このミミズどっかにやってほしいな」
ミミズを一匹遠くに放り投げさせられた。
フウ、この際お前でもいいから…。
「ん〜?おなかすいたの?」
やっぱり予想通りの答えが返ってくる。
藁にもすがる思いでアオの側へ。
頼む、俺に教えてくれ…!
「――えっとね、こうやって草を抜いたりするんだよ。…あっ、間違えて野菜抜いちゃった…。お兄ちゃん、どうしよう」
(…助言でもなんでもねぇ…。こいつら教える気、ゼロだ…)
まったく意味を成さない子どもたちの助言は、仕方ないので無視した(アオの抜いた野菜はなんとか埋め直した)。
とりあえず朱里はため息をついて、小夜やチカの見よう見真似で、畑仕事を開始したのだった。
「おっし、こんな感じだな」
コートを脱いで半袖の黒シャツ姿になった朱里は、額に浮いた玉の汗をぐいっと腕で拭った。
やってみれば大したことはない。
土を耕し、草を抜く。この繰り返しだ。
畑仕事の楽しさに触れ黙々と作業を続けるうちに、いつの間にか太陽は空の頂きに昇っていた。
チカの声が響く。
「みんな、休憩していいよ」
畑の近くの木の根元に朱里は腰を下ろした。
木陰になっているため日向より気温が低いが、動いて汗をかいた体にはちょうどいい。
時おり、心地よい風が朱里の頬を撫でていく。
休息に浸る朱里とは反対に、子どもたちは未だ元気に遊び回っていた。
それをぼんやり見るともなく眺めていると、小夜が朱里の隣に座ってきた。
「朱里さん、お疲れさまです」
「ああ、お前こそな。ずいぶん張り切ってるじゃん」
いつもこれくらいの手際の良さがあればいいんだけどな。
その思いは自分の胸の中にだけ止めておくことにする。
「えへへへ、つい昔を思い出してしまって」
朱里の思いも知らず、小夜は照れたような笑顔をこぼすと、こちらに向かって駆けてくるアオに軽く手を振ってみせた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんっ、おつかれさまっ」
「おう」
朱里が避けてやると、アオは嬉しそうに二人の間に腰を下ろした。
「アオくんも頑張ってましたね。お疲れさまです」
小夜がアオの鼻の頭についた土を拭ってやりながら言うと、アオも元気よくうなずく。
「あっ、そうだ!あのね、二人の名前教えてほしいの」
「名前?俺はともかく、お前まだ教えてなかったのかよ。長いこと一緒に遊んでたのに」
小夜のほうを見ると、小夜自身今まさに気づいたというふうな表情で、口に手を当てていた。
「そうでした!すみませんっ、すっかり自己紹介を忘れてました!えっと、では改めまして…私は小夜と言います。朱里さんの相棒をしているんです」
「相棒?」
「はいっ。朱里さんはトレジャーハンターなんです。今回もこの町に来たのは、宝物の情報が…入って…」
嬉しそうに語り出した小夜の顔は、途中で笑顔を失ってふいに暗い色をのぞかせた。
その理由に思い当たり、朱里は「小夜」と声をかける。
気にすんな、と小さく首を振ってみせると、小夜がうなずくのが分かった。
それを確かめて、朱里はアオに顔を戻した。
「そんで、俺は朱里。小夜と国を回って旅してるんだ」
「へええ、旅かあ。いいなぁ、僕もいろんなところに行ってみたい!」
アオが無邪気にはしゃぎながら朱里と小夜の顔を交互に見た。
小夜が微笑みを返す。
すると、アオは何か思い出したかのように両手を合わせた。
「あっ、そうだ!僕の名前はねっ」
「アオ、だろ。前に自分で名乗ってたよな」
途中で制して朱里が言うが、アオはぷるぷる首を左右に振った。
「ううんっ、そうだけどそうじゃないんだよ。それは皆が僕を呼ぶときの名前。僕の名前本当は、蒼(あおい)って言うんだ」