「あっ、朱里さん!皆さん、朱里さんが来てくださいましたよ!」

すっかり子どもたちと打ち解けたらしい小夜は、朱里の姿を認めてスコップを握った手をぶんぶん振ってきた。

子どもたちも一斉に朱里に顔を向ける。

「…あー、まあよろしく」

微妙な気恥ずかしさに頭を掻きつつ、朱里は畑の前に立ち中を見下ろした。

…さて…どうするか…。


実は朱里、畑仕事というものはこれが初である。
何をすればいいのか今いち見当もつかない。

小夜も姫様なのだからもちろん自分と同様だと思うのだが、妙に手際よく土をいじっている姿からはなぜか熟練の技を感じる。

このとき朱里は知らなかったが、小夜は幼い頃から城の中庭にある花畑を一人で世話してきたという実経験を持っていた。

つまり、当然土いじりに関してはスペシャリストだったのである。


(…一体何すりゃいいんだ?)

一人手持ち無沙汰にスコップを握って立ち尽くす朱里。

頼りの小夜も、自分の生きがいを見つけたかのように生き生き働いているため、一人佇む朱里の姿に気づく様子はない。

(…やばい、俺孤独だ…)

おかしな寂寥感に朱里が襲われたときだった。


くいくい、と何かが朱里のズボンを引っ張った。

視線を下ろすと、こちらを見つめる二対の瞳と目が合った。

いつの間にか子どもが二人、朱里の足元にしゃがみ込んで、その顔を見上げていたのである。

「お兄さん、どうしたの?」

髪を高い位置でツインテールにした少女のほうが、興味津々といった感じの表情を浮かべて声をかけてきた。

すると、側にいたもう一人の太めの少年のほうが、

「おなかすいたんでしょ〜?」

言った後でぐうっと鳴いた自分の腹の虫に、「オレももうペコペコ〜」と気の抜けた声を出した。

「いや、俺は特にすいてねえけど」

朱里は軽く笑顔をこぼして答える。


昨日はあれほど朱里たちを怯えた瞳で見ていた子どもたちだが、今ではすっかりこのとおり、普通に話せる仲に進展していた。

これもすべて、朱里が体を張って目隠し鬼をやり続けた努力の成果である。

「もうっ。いっつもおなかすかせてるのは、フウだけでしょ。人一倍食べるくせにさ」

「だってぇ。仕方ないじゃんか〜。ねえ〜?」

少女の鋭い指摘に、フウと呼ばれた少年は助けを求めてきた。

何と言えばいいのやら。

軽く悩んでいると、今度は遠くにいた別の少年が「あ!」と叫んで、こちらをびしっと指差す。

「あーっ!見て姉ちゃん!あいつら仕事サボってる!サボった奴は晩飯抜きなんだぞー」

勝気そうな目をした黒い短髪の少年は大きな声で叫んで、側にいた小夜の服をぐいぐい引っ張った。

「朱里さん、だめですよ。ちゃんとお手伝いしないと」

腰に手を当て言う小夜の姿は普段と違い、すっかり堂々たる畑の女主人のものだ。

「わ、悪ぃ」

無意識のうちに謝る朱里を見て、小夜に告げ口した少年が愉快そうに笑った。

「あはははっ、謝ってら!兄ちゃん男のくせに情けねぇ」

「さっきもずっと捕まって、鬼ばっかやってたしね」

すかさず痛いところを突いてくるのは、勝気そうな少年の側にいた、糸目に小さな口が特徴的な狐顔の少年である。

「うっせえ!お前らのほうこそ仕事しやがれ」

遠くで笑う少年たちに、握ったスコップを向けながら朱里は叫んだ。


ぎゃあぎゃあ騒ぎ合う朱里と子どもたち。

そこにすかさず、チカの声がとぶ。


「――今日は三人とも、晩ご飯いらないみたいだね」


その途端、場が一斉に静かになったのは言うまでもない。

朱里までもが反射的に、地面を必死で掘っていた。




六人の子どもたちは皆何かしら個性的な一面を持っていた。

リーダーとしての役目を担う、やけにクールな少年チカ。

小夜に告げ口をした、悪戯好きで余った元気を人にぶつけるのが大好きな少年クロウ。

クロウと一緒になっていつもふざけている、毒舌少年キース。

先ほど朱里に声をかけてきた勝気な少女ナギ。

本人以上に元気な腹の虫を持つ少年フウ。

そして、朱里と小夜をここまで導いてきてくれた最年少の少年アオ。


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