「二人は行かないの?」

いつの間に戻ってきたのか、アオがひょこっと小夜の後ろから、無邪気な顔をのぞかせた。

「ああ、俺たちはやめ…」

「行きますっ」

朱里の声を遮って、小夜が大きく返事をする。

「お役に立てるでしょうか?」

「うんっ。二人が来てくれると、みんなすごく助かると思うよ」

朱里はそっちのけで会話を進める二人。

朱里が反論しようとしたときには、

「じゃあ、行こっ!」

嬉しそうに笑ったアオが、小夜とそして朱里の手を握ったところだった。

いくら朱里でも、嬉しそうな笑顔を向けてくるアオの手を跳ねのけることはできない。

結局、朱里はアオに引かれる格好で、今日初めて外の陽を浴びることになるのだった。


****



押しに弱いとは薄々気づいていたが、まさか子どもにすら有無も言えないほどだとは…。


秋風の冷たさに身を震わせ、朱里は家の前に集った子どもたちを眺めた。

「あれ、あなたたちも行くんだ」

そっけなく言うチカに、行きたいわけじゃないけどな、と視線でささやかな抵抗を試みるが、朱里を捕えたアオの手は一向に離される気配がない。

「ぜひ、皆さんのお手伝いをさせていただきたくて!」

朱里と対照的にやる気満々の小夜にも、チカはただ「ふうん」と返しただけだった。


「じゃあ、みんなそろったみたいだし、そろそろ出発しようか」

子どもたちはリーダーのチカを先頭として歩き始めた。

もちろん、小夜と朱里もアオに連れられて進む。
と、ここで初めて朱里が声を出した。

「あれ、町に行くんじゃないのか?」

前を歩く子どもたちが、不思議そうに後ろの朱里を振り返る。

「町?どうして?」

「あんまりそっちには行かないよー」

「町は危ないもんねー」

口々に言う子どもたちに、朱里は混乱してしまった。


てっきり、町の食べ物を盗みに行くとばかり思っていたのに。

町じゃないなら、一体どこに行くっていうんだ?


「――森に行くんだよ。仕事をしにね」

まるで朱里の心を読み取ったかのようなタイミングで、チカが答えた。

だが、森と仕事とがうまく朱里の中では結び付かない。
ますます混乱の極みに陥るばかりである。


子どもの一団は、再び森に向かって進み始める。



「…なぁ、アオ。森の仕事って、一体何するんだ?」

なんとなく小声で、朱里は横を歩くアオに尋ねた。

「んっとね…行くまでは内緒だよっ」

「なんだそれ」

「朱里さん、着いてからのお楽しみってことですよ!ワクワクしますねっ」

アオを挟んだ向こう側にいる小夜は、実際すごく嬉しそうに笑顔を浮かべている。

毎度のことながら、こいつは仕事の意味を分かってるんだろうか、と朱里は小さく首を振った。
遊び事じゃないっていつも言ってんのに…。


先頭を行くチカが下げたバケツからは、ずっとガチャガチャ音が鳴り響いている。


さて、何を手伝わされることになるのやら。


アオにぶんぶん手を振られながら、朱里は前に臨む深い森を見上げたのだった。



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