どうしたのかと、側にいた小夜もしゃがんでアオの顔をのぞき込んだ。
するとアオは小さな両手で小夜の手をそっと握り、
「…このお姉ちゃんは、僕を見ても嫌な顔しなかった。鼻を押さえたりもしなかったんだ。こんなに汚い僕を抱っこして、ぎゅうってしてくれたんだよ」
嬉しそうな微笑みを浮かべ、そのまま側に立つ朱里の顔を見上げる。
「お兄ちゃんもそう。自分が寒いのに、僕にコートを貸してくれたんだ」
アオが片手を伸ばして朱里の手を握ると、気恥ずかしそうに朱里は咳払いして顔を背けた。
朱里と小夜と手をつなぎ、前の子どもたちのほうを向いて、アオは幸せそうに微笑んで言った。
「二人とも、僕たちの知ってる町の人とは違うよ。すごくすごく温かいんだもん」
まるでつないだ手の平から優しい温もりが伝わってくるのだとでもいうように、アオが強く二人の手を握る。
それに応えるように朱里と小夜もその小さな手を握り返した。
それが嬉しいのか、アオははにかみをこぼした。
チカはそんなアオを眩しそうに眺め、改めてその側に立つ二人に目をやり、
「ふうん…。でもどうしてこの人たち泊まるところがないの?町に宿があるのに、泊まれないの?」
もっともな質問を投げかけてきた。
何も知らない人間からしたら、疑問に思うのも当然だろう。
その問いにアオが答えようとするが、口を開けたまま言葉が出てくる気配はない。
「……えっと…どうしてだろ」
しまいには首をかしげて考え込んでしまう。
その側で朱里はうつむけた顔を上げることなく、小夜も辛そうに押し黙ったままだ。
「どこにも泊まれないのは、そっちのお姉さんの怪我も関係あったりするのかな」
チカの核心を突く言葉に、朱里はとっさに顔を上げた。
見ると、じっと探るような目を小夜の額に向けるチカがいた。
血が止まったとはいえ、前髪の間からのぞく小夜の額は赤く腫れ痛々しい状態だった。
特に痛みは訴えないが、きっと小夜のことだ、痛くても黙って耐えているのに違いない。
ただ朱里に心配させまいとして。
(怪我の原因は俺なのに、全然責め立てたりもしないで笑ってる…。いつだってそうだ、こいつは…)
再び深い沈黙が皆を襲った。
そのどんよりと重く漂う空気を吹き消すように、チカが盛大なため息をついて肩をすくめてみせる。
「まあいいけどさ。とりあえず、二人の世話はアオがちゃんとするんだよ。いいね、分かった?」
言葉の後半はチカの後ろにいる子どもたちに向けられたものだったが、彼らも仕方がないというように息を吐くだけで、特に異論は出なかった。
それを確認してチカがアオに笑いかける。
「よかったね、アオ」
まるで弟にでも向けるような優しい笑顔は、朱里に"家族"という単語を改めて思い起こさせるものだった。
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