そんな二人をよそに、アオは何のためらいもなく扉を開いた。


「ただいまぁ!」

扉が開いた瞬間、朱里の目にまばゆい光が飛び込んできた。

突然の明かりに慣れない目を細めつつ、朱里と小夜もアオの後に続く。


中は一階とは打って変わって何の変哲もない普通の部屋だった。

だが、そこに広がるのは朱里が思ってもみない光景だった。


「こらっ、上では大っきな声出しちゃだめだって言ったでしょ」

「でも、チカの声のほうがよっぽど大きかったよなぁ?」

「うんうん。私耳が破れちゃうかと思った」

「それよりさー、何かいい物あったー?」

「オレ、お腹すいたぁ」

全部で五人、口々に喋りながら子どもたちが部屋のあちこちでくつろいでいたのだ。

みんなアオと同じか、少し上くらいの年の少年少女たちだろう。

「えへへ、ごめんなさい。もうしないよ」

アオが照れたように笑うと、それを見て手前にいた子どもたちのリーダーらしき一番年上の少年が、軽く息をついて苦笑した。

「まったく、仕方ないんだから」

確か"チカ"と呼ばれていた。12歳くらいだろうか。

朱里はぼんやりその少年を見る。

栗色のくせっ毛の下に色白の、女の子とでも思えるほどの愛らしい容姿。

着ている物は割と高価そうな長袖の白シャツに、サスペンダー付きの長ズボンなのだが、それも今ではひどく汚れてしまって見る影もない。


そのリーダーの少年チカは、後ろ頭に手をやりながら、今度は扉の前に突っ立っている朱里と小夜のほうに視線を向けてきた。

「…ところで、その人たちは何?」

急にその瞳が警戒の色を浮かべるのに朱里は気づいた。

容赦なく注がれる冷たい眼差しに、何と説明すればいいのか考えあぐねているうちに、アオが朱里と小夜の服をきゅっとつまんで口を開いた。

「あのねっ、僕がここまで案内したのっ」

「ここによそ者を連れてきちゃだめだって言ったのに?」

チカがいぶかしむように朱里と小夜の顔を交互に見る。

その後ろでは同じように、他の子どもたちが不安げな視線を二人に投げかけていた。


チカを含め、どの子どもにしてもその身なりは酷いものだった。

元はみんな普通の服だろうに、それも定かでないくらいボロボロに破けたりしている。

さらに全員共通して、顔や体にはアザやすり傷を無数に作っていた。

「でも、でもねっ、お姉ちゃんたち今日は泊まるところがなくて、すごく困ってたからっ…」

懸命に仲間たちの警戒を解こうと、アオは手を広げて説明してくれる。


五人の子どもたち。
これがアオの家族なのだ。

同じ境遇の子どもたちが寄り集まり、今のように共同生活をしているのだろう。

そう。親のいない、孤児という名の境遇で…。


朱里は目を細め、改めてやせ細った子供たちを順々に見た。

この子どもたちは親がいないだけではない。

自分の居場所すらも与えてもらえなかったのだ。

だからこんな廃屋の地下で、人に見つからぬようひっそりと生きていかなければならない。


昔の朱里と同じ、故郷なのに受け入れてもらえない、この冷たい町で――。


無意識に体の横に垂らした拳に力を入れたときだった。

それまで必死に朱里たちは怪しくないと説明していたアオが、急に黙り込んだ。

一瞬場が沈黙に包まれ、不思議に思ったチカが声をかける。

「アオ?」


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