「兄弟の方ではないですか?」
「んー…」
微妙な返事をして、朱里は後ろにいるアオをこっそり盗み見た。
薄暗い部屋の中でも、アオが痩せているのはすぐに分かる。
いや、それだけではない。
アオがその年の子どもにしては、やけに身長が低いことにも、朱里は気づいていた。
このアオの状態を見て、栄養が明らかに足りていないということはすぐに見当がつく。
実際昔の朱里もアオと同じ姿で、つねに腹を空かせていたのだから。
(…こいつの家族って、一体どんなやつなんだろう)
突如浮かんだ疑問が朱里の頭をかすめたが、それも、
「じゃあ、行こっ」
アオが地下へ続く階段を下りていったため、すぐに消え失せた。
「はいっ、行きましょう」
後に小夜が続こうとするが、朱里がその腕を掴み自分の後ろにやって阻む。
口を開こうとする小夜より早く、ずいと朱里は人差し指を小夜の目前に向けた。
「お前は俺の後ろを歩けよ。そのほうが、お前が階段から転げ落ちそうになったとき安全だろ」
「えっ、なぜですか?」
向けられた指に目線を向けつつ首をかしげる小夜に、朱里がさらりと答える。
「俺だったらお前の体重支えられるからな。子どものアオじゃ、お前が落ちてきたら間違いなくぺしゃんこだぜ?」
にっと不適に笑って、朱里はそのまま階段を下り始めた。
その後ろでは小夜の顔が真っ赤に染まっていたりするのだが、むろん前を行く朱里には見えない。
「…絶対ダイエットします…」
ただぽつりと呟かれた声に、朱里は一人ひそかに笑みをこぼすのだった。
階段を下りると、そこには細い一本道が続いていた。
岩肌をさらした壁にはところどころ申し訳程度にロウソクの台が設置されており、周囲をぼんやり照らし出している。
どうやらまだ声の主がいる空間は先のようだ。
「へぇ…、家の地下にこんな道があるのか。なんかほんとに隠れ家っぽいな」
坑道のように天井まで岩が覆う道を見上げつつ朱里が呟く。
すると横を歩いている小夜も、同じように感嘆の声を漏らしてうなずいた。
「すごく素敵ですっ。正真正銘の隠れ家ですっ!」
多少天井が低く軽い圧迫感を覚えるが、それでもこの雰囲気はなかなかだ。
小夜だけでなく朱里も、ついつい気分が高まっていくのを感じた。
永遠に続きそうなイメージがあったが、案外早く道の終わりは見えてきた。
少し先にロウソクに照らされて、金属製の扉が三人を待ち構えている。
「あの向こうにみんないるんだよ」
すぐ前を歩いていたアオが後ろを振り返って、嬉しそうに扉のほうを指差した。
「お前の家族がいるのか?」
「うんっ、そう」
"家族"という言葉に、アオが満面の笑みをこぼす。
それを見て朱里は、先ほど浮かんだ疑問が再び色濃くなるのを感じた。
ろくに食べ物も着る物もない状態のアオの家族。
隠れるようにひっそり暮らしているその家族の像が、朱里にはまったく想像できない。
一体どんな奴があの扉の向こうにいるんだ?
「うわぁ、なんだかドキドキしてきましたっ」
両手で胸を押さえる小夜を横目に、朱里も違う意味での緊張を覚えながら、すぐ近くに迫った冷たい金属の扉を見据えた。