そんな小夜を見て少年はひとり確認するようにうなずいた。
朱里にはますますわけが分からない。
やっぱ子どもって変なとこあるよな。
ぼんやりと脳裏に、師匠のところのはちゃめちゃ三兄弟が浮かんだときだった。
「決めたっ」
突然少年が朱里の手を握りしめ、ベンチに座る小夜の手も引っ張って立ち上がらせた。
そしてきらきら輝く大きな目で、朱里と小夜を見上げて言い放つ。
「二人とも、僕たちの家においでよっ」
「僕の名前はアオ。よろしくねっ」
思わぬところに救世主がいたもんだ。
夕日が沈みつつある小道を三人並んで歩きながら、朱里は隣の少年をちらと見下ろした。
(アオか…)
朱里と小夜の手をしっかと握って、なんとも嬉しそうに鼻歌を歌っているアオという名の少年。
先ほどから朱里のコートを羽織っているのだが、大きすぎるため裾を地面に引きずる状態が続いている。
どんどん砂にまみれていく自分の愛用コートはとりあえず見なかったことにして、朱里は周囲を見回した。
(…ずいぶんと町の外れまで来たもんだ)
綺麗に舗装された中心部とは趣を異にした景色が、朱里の目の前には広がっていた。
明らかに空き家だと見てとれる木造の家々が道を挟んで連なり、中には半壊しかけた家もある。
地面は石畳はもちろん、舗装もまったく行なわれていない状態で、黄土で固められているだけのようだった。
廃れた空気に覆われたこの通りを、好き好んで歩く者はいないようだ。
並んで歩く三人以外、人の影は一切ない。
夜が訪れる直前のしんとした空気が、朱里の服を通して肌をチリチリと刺した。
「なぁ、お前の家ってここら辺にあるのか?」
崩れかけた家々に視線を移しながら朱里が尋ねると、アオは明るい声で返事をした。
「うんっ。もうすぐ見えてくるよ!」
もうすぐ、と言われてそれらしい建物がないか探しつつ足を進めるが、目に入ってくるのはどれも空き家ばかりだ。
そうこうしているうちに、町の端に位置する森の緑が広がり始め、道の終わりも近づいてきてしまっていた。
「おい、もしかして森の中にあるのかよ」
怪訝そうな表情で朱里が、今や目前に迫るまでに近づいた濃緑の森を見上げる。
きっとこの森の中に入れば、夕日も届かないほどの深い闇が瞬く間に自分たちを覆い隠してしまうに違いない。
そうなれば必然的に、どこかの誰かは転んだりするわけで。
ちら、と横目で小夜を見たとき、思いがけずアオが朱里の手を引っ張ってきた。
「森じゃないよ。こっち、ここだよ」
「へ?」
ここ、とアオが指差したのは、森のほんの手前に連なる廃屋の中の一軒の家だった。
一見二階建ての木造廃屋で、窓はなんとかくすんだガラスがはまっている状態だったが、周りの崩れかけた家々よりは多少まともそうに見えた。
それでも、長い時間を感じさせるくらいには、古そうな雰囲気が漂っていたが。
「うわぁ、趣のあるお家ですねっ」
物は言いようだな、と素直にはしゃぐ小夜に苦笑して、朱里は廃屋に駆けていくアオに目をやった。
「早く早くっ!みんなに会わせてあげるからっ」
「みんな?」
「そうだよ、みんな!」
尋ねる朱里と小夜の手をとって、アオは嬉しそうに廃屋の中に入っていくのだった。