靴も履いていない無防備すぎる足は、傷の数も尋常ではない。
また、青アザが浮かんだ頬は見ているだけで痛々しかった。
それらの怪我がすべて人為的なものであることは誰か見ても明らかだ。
無邪気に怪我を指差して笑う少年に、朱里は一瞬自分の昔の姿を投影してしまった。
こいつも、昔の俺と一緒だ。
あいつらに、大人たちに暴力を振るわれてる。
邪魔だからって理由だけで傷つけられてるんだ…。
行き場のない怒りがじわりと沸き上がってくる。
そのとき、朱里の隣に座る小夜の腕が少年に伸びた。
小夜はそのまま少年の体を引き寄せ、自分の膝の上に抱き上げた。
そのままそっと壊れ物に触れるかのように、少年の顔の包帯に手を添える。
「…これは?」
「これ?たいしたことないよ、痛くないもん」
にっこり笑顔を見せる片目の少年は、自分が小夜の膝の上に座っていることに改めて気付いたのか、
「それよりお洋服、汚れちゃうよ…?」
急にもじもじし出して、申し訳なさそうに小夜の顔を上目づかいで見た。
小夜はそんな少年に心底きょとんとした表情を向ける。
「?汚れないですよ。どうしてですか?」
「…だ、だって僕…すごく汚い、し…」
長めの前髪からのぞく少年の大きな瞳が落ち着きなく揺れた。
「それに……臭いでしょ…?」
消え入りそうな声を出した後、少年は真っ赤に染まった顔をうつむけてしまった。
側で朱里が見つめる中、小夜はそんな少年の小さな体を両腕で包み込み、そのまま胸に優しく抱きしめた。
「そんなことないです。ポカポカの、太陽の匂いがしますよ。私の大好きな匂いです」
そう言って柔らかく微笑む小夜の胸に頬を埋めて、ためらいがちに少年が訊く。
「太陽…?それって匂いするの?」
「もちろんです。すごく温かくて気持ちのいい匂いなんですよ」
まるで母親のようにその頭を撫でてやる小夜に、とても気持ちよさそうな表情を浮かべて少年がそっと目を閉じた。
「そうなんだ…。お姉ちゃんもなんかいい匂いがするね」
「そうですか?自分ではよく分からないですが」
「するよ、すごくいい匂い。もしかしてこれが太陽の匂いじゃないのかなぁ」
幸せそうに笑う片目の少年と、それを優しく抱く小夜の姿が夕日に照らされて、朱里はまぶしさに目を細めた。
自分と同じ境遇の子どもを自然体で受け入れてくれる大人。
(俺の頃には決してなかったもの…)
なんだか無性に救われた気がして、切なさが込み上げてくる。
今の朱里には、ひどく目の前の二人が愛しく感じられた。
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