いまだに不安の色を残す小夜の頭に、朱里は手を乗せた。

「何にせよ、あいつらの故郷は守られたな」

「故郷?」

自分の頭の上にある朱里の手はそのままに、小夜がこちらを見上げて尋ねてくる。

朱里はああ、と頷いてみせた。

「この町はあいつらの故郷。あいつらの帰るべき場所だ。もう誰もあいつらを追い出そうとはしない。きっとこれからここは、あいつらにとって平穏な場所になる」

「ずっとみんな、笑って暮らしていけるんですね」

小夜が嬉しそうな笑みを漏らす。

「きっと誰かさんが必死に守ろうとしたおかげだな」

うっすらと頬にアザを残してきょとんとする小夜に笑ってみせると、朱里は大きく空を仰いだ。


淡い薄水色の空にはひとつの雲もない。
どこまでも壮大な空が続いている。


一陣の風が吹いて、どこか遠くのほうから子どもたちの笑い声が耳をかすめていった。

いつか森の広場で過ごした昼下がりの光景が、まぶたの裏に蘇る。


鮮やかな景色の中で息づくのは、無邪気に走り回る6人の子どもたち。


秋の空を見上げる朱里の視界が、そのときかすかに揺らいだ。


「なあ、小夜」

「はい」

朱里は空を仰ぎ続ける。


「いつか、またここに来ような。この空がもっと蒼くなる頃に、また」


隣で小夜が空を見上げる気配がして、その後ささやくような声が答えを告げる。


「はい、きっと──」



風に乗ってまた、子どもたちの笑い声が聞こえた。

まるで空が笑っているように。



蒼々と、遙か彼方まで広がる空の海を駆けていく小さな少年の姿を、朱里はいつまでも頭に思い描いていた。



The Treasure Hunter
記憶漂う町 -完-
09.1.6 幸


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