次の日の朝食も相変わらずだった。
懸命に何事か話しかけるアンナと、それを無視して淡々と食事を進める子どもたち。
小夜はついに見ていられなくなって視線を落とす。
そんなとき、朱里が別れの話を切り出した。
朱里の話に動揺を見せたのは、ナギとフウだけだった。
チカもクロウもキースもただ頷くだけで、朱里と小夜を止めようとはしなかった。
「分かってたことだから」
三人はそんなふうに口にした。
朱里の提案で、最後にみんなで森の広場へ向かうことになったのは、それから一刻もしないうちのことだった。
朱里を先頭に、一団は森の奥を目指して歩く。
最後尾にはアンナもついてきていたが、誰もそれを非難する者はいなかった。
森の中は驚くほど静かだった。
生き物の気配がしない。
もう動物たちは冬眠に入ってしまったのだろうか。
前を行く朱里の頭を見上げながら進んでいると、急に視界が開けて薄水色の空が一面に広がった。
広場の隅、小さく土が盛られた場所に、一同は黙って佇む。
この土の下には仲間の一人が眠っているはずだった。
小夜はぼんやりと盛り上がった土を見下ろす。
いまだに信じられなかった。
ここにアオが眠っているなんて。
もう二度と会うことも、抱き締めることもできないなんて。
酷く落ち込んでいるのに、それとは別にアオの死を受け入れている自分もいる。
死はいつも突然、ほんの気紛れに誰かの命を奪っていく。
どんなに抗っても、呆気なく魂を丸呑みにする。
きっとその人に突然死が訪れるとすれば、それは定められた運命なのだ。
決して逃げることができない。
だから、アオも、小夜の父も母も死んだ。
どんなに小夜が泣いて請っても、もう命は戻らない。
死とはそういうものなのだ。
冷酷で無慈悲で、そして絶対的な力。
自分もいつかはその力に引かれる日が来るのだろう。
死はすべての者に平等に与えられる。
きっと遅いか早いかの違いだけなのだ。
「小夜」
呼ばれて、小夜は我に返る。
横を見ると、朱里がじっと自分の顔を見つめていた。
「どうした?気分でも悪いのか」
小夜は笑顔で首を振る。
「いいえ、元気ですよっ」
なおも自分をうかがう朱里の視線に気付かないふりをして、小夜は再び足元に視線を落とす。
そのとき、後ろから伸びていた影のひとつが動いた。
アンナはアオが眠る土の前に立つと、小さく一言呟いた。
「ごめんなさい」
答えることができないアオの代わりに、誰かが口を開く。
「…謝るくらいなら、なんで最初からあんなことするんだよ」
小夜が振り返ると、クロウが体の横で拳を握り締めてアンナの背中を睨みつけているのが見えた。
「お前がそこに立つ権利なんてほんとはないんだ。アオはお前のせいで死んだ。お前がアオを殺したんだ」
暗い炎を灯して燃え上がるクロウの瞳が、アンナから逸らされることはない。
アンナは振り返ることもなく無言で立ち尽くしている。
「なんでお前がここにいるんだよ…。なんで俺たちの家にお前がいるんだ!」
クロウの叫びを止めようとする者はいない。
おそらく子どもたちは皆クロウと同じ思いを抱いているのだ。
唯一チカだけが、どこか哀しそうに無言でクロウを見つめていた。
「何なんだよお前…何考えてるんだよ。俺たちの家族を奪って、俺たちの家を壊して…これ以上何するつもりだ!次は何を取ってくつもりだよ!」
クロウの目には涙が浮かんでいた。
クロウは肩を上下させて荒い息を吐く。
再び下りた沈黙の中、アンナの背中がゆっくりと動いた。