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外は思ったよりも寒くない。

いや、俺の気持ちが微妙に昂ぶってるせいか。

苦笑してこの街の地図を広げていると、小夜がコートの裾を軽く引いてきた。

「なんだよ?」

「あ、あのごめんなさい、言い忘れてしまって…。遺跡かあるのこの街じゃないんです」

申し訳なさそうに言う小夜の言葉に、朱里は口をぽかんと開けた。

「……お前なぁ…、そういう大事なことは早めに言えよ。ここじゃないって、もしかして遠いのか?」

出鼻をくじかれた感じに、今まで高揚していた気分が一気に半減するのが分かった。

目的地が遠いのなら、それに伴ってしっかりとした旅の支度も必要だ。そうなると仕事を始めるまでの時間もかかる。

(こりゃ、やるかどうかは距離次第だな)

小夜の返事を待ちつつ考えていると、小夜が軽く首を振って答えた。

「遠くないですよ。隣り町ですから」

"隣り町"と聞いて朱里はふぅ、と息をつく。
それならあまり時間をかけずに辿り着けそうだ。
再び高揚感が湧いてきた。

そのとき補足するように小夜の声が続いた。

「たしか"カレストイ"って街らしいです」

「……カレストイ?」

歩みかけていた朱里の足が突如止まった。


思いがけない街の名前だった。

まさかこんなところで、その名を聞くことになるとは…。


「あの、朱里さん?」

いきなり黙り込んだ朱里に、後ろから小夜が声をかけるが、返事はない。
前に回ってその顔を見上げても、どこか考えこむような目を遠くに向けて、小夜に気づく様子もなかった。


突然どうしたのだろう。

困ったように小夜が首をかしげていると、頭上から声がかけられた。

「…お前行きたいか?」

見ると、ようやくこちらに視線を向けた朱里の顔。
ただその顔には先ほどと違い、暗い色が浮かんでいる。

「朱里さん?」

「お前、どうしてもその街に行きたいか?」

同じ質問を繰り返して朱里は小夜の顔をじっと見ている。

小夜としては自分が初めて見つけた宝の情報だけに思い入れも強くあり、ぜひともカレストイヘ行ってみたいところなのだが、朱里の突然の変わり様にはい、とも言えない。

「えと…朱里さんがお嫌なら行かなくてもいいです…」

そう言って小さく笑うと、一瞬目を大きくした朱里が息を吐いて頭を掻いた。

「あー…悪ぃ、今のなし。せっかくお前が集めてきた話だもんな。行こうぜ、その街に」

「え、でも…」

戸惑う小夜に朱里がズイと顔を寄せる。

「行きたくないのかよ?」

それにプルプル首を振って答えると、「よし」とうなずいて朱里が再び歩き出した。

混乱しつつ小夜もその背中を追いかける。



決意した目で遠く、カレストイがあるだろう方角を見つめる朱里の表情は、もちろん後ろにいる小夜には見えなかった。



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