「違いますよー、私は食べ物を探しに行ったんじゃありません」

ふるふる首を振って小夜が机の前に手をおく。

「見つけたんです」

「何を?」


「宝物の情報を!!」


一際大きな声を出して、小夜がやたらキラキラ光る瞳をいっそう大きくした。

思わぬ返答に、その前に座る朱里も同じように目を見開く。

「宝の情報…?お前が?」

とり方によっては相当失礼な質問だが、嬉しそうに小夜はコクコクうなずいている。

ふむ、と一呼吸置いて、朱里は「話してみろよ」と先を促した。





小夜は身振り手振りを交えながら、必死に自分が得た情報を説明しようとしていた。

「あの、それで、その遺跡が……あ、この遺跡っていうのは街のどこかにあるそうなんですが、それでえっと、この遺跡がですね」

「…………」

真剣なのはよく分かる。

腕を組んでじっと話を聞きながら、朱里はひそかにため息をついた。

急に話が戻ったり、かと思えばポーンと跳んだり…。一生懸命伝えようとしているのは分かるのだが…。

はっきり言って意味がまったく分かんねぇ!!

「それをマイクさんとジョニーさんが…」

あげくには聞いたこともない名前が飛び出す始末…。


「ちょっと待て。まずは落ち着け」

これはこっちが具体的な質問を投げかけてやらなきゃ駄目だな。

とりあえず茶を勧めつつ、今度は自分のほうから話を切り出してみた。

「まず訊くけど、その情報はどこから仕入れたんだ」

慣れない説明で喉が渇いたのか、グラスを半分ほど一気に空けて小夜が答える。

「酒場です。そこにいらっしゃった男の方々に聞きました」

「へぇ、酒場…………酒場!?お前そんな危ないとこ行ったのか!!?」

「え、だっていつも朱里さんがああいう場所で情報を集めていらっしゃるので…。それに皆さんとてもいい人ばかりでしたよ」

いつものように無邪気に微笑む顔には、警戒の"け"の字もない。
朱里は今度こそ盛大なため息をついた。

「いい人いい人って…世の中そんな奴らばっかじゃねえんだよ…」

ため息混じりに呟いた顔がわずかに曇る。
しかし小夜がそれと気づく前に、彼は話を元に戻した。

「…まぁいい。酒場にいた奴に聞いたわけだな。遺跡がどうとか言ってたけど、どんなお宝が眠ってるって?」

「えと、昔その遺跡の周り一帯を治めていた王様が、亡くなる前に自分の財産をすべてそこに隠したんだそうです。
一生遊んで暮らせるほどの宝の山だって、マイクさんがおっしゃってました」

「ふぅん。じゃあなんでそのマイクは、自分でその遺跡のお宝盗りに行かないんだよ」

机に頬杖をついて朱里が尋ねる。
すると小夜は少し答えにくそうにためらった後、ぽつりと呟いた。


「見つからないんだそうです…」

「?見つからない?」

わずかに朱里の目が細められる。

「はい。噂はあちこちで広まってるそうなんですが、誰も実際にその遺跡を見たことがないらしくて…」

「…噂の中だけの宝の遺跡か。夢物語みたいだな」

「だ、だめでしょうか…?」

不安そうにこちらの様子をうかがってくる小夜に、朱里は席を立ちつつ答えた。

「面白そうじゃねえか。ちょうど暇してたところだしな。
その、誰も見たことがない幻の遺跡、俺たちで見つけてやろうぜ」


ニヤッと笑ってそのまま宿を出ていく。

「…っはい!」

顔を輝かせて、小夜も後に続いていった。



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