「きっとアールにも見つかります、自分の道が」
笑顔で言う小夜を朱里がじと目で見る。
「…じゃあお前の道はどこなわけ?」
「え?朱里さんと一緒に歩いている道ですよ」
「あいつと一緒の道じゃなくて?」
見上げた朱里の顔はなぜか不機嫌だ。
小夜は首をかしげた。
「朱里さん?どうかなさったんですか?」
「べつに。ただあいつと話してるときのお前、やたら楽しそうだったなと思っただけだよ。デコチュー2回もされてさ」
言って朱里はすたすた歩みを速める。
それを慌てて追いかけながら、小夜はあれ?と思った。
「どうしておでこにキスされたの知ってるんですか?一度目は私とアールしかいなかったのに」
「あぁ?そんなもん忍……な、なんでもねぇ」
「…もしかしてどこかに隠れていらっしゃったんですか?」
ギクッと効果音が聞こえてきそうなほど、朱里の肩が反応する。
「…私が寝てるときから…?じゃあ、あの夢も…」
そっと自分の唇に指をあてた小夜を見て、朱里の顔が急激に赤く染まった。
「ちっちが…違う!!」
もはや茹でダコ状態だ。
明らかにその顔は、何かありましたと言わんばかりに動揺している。
じっと自分を見つめる小夜の視線に耐えかねて、たまらず朱里は一人駆け出した。
その後ろ姿を小夜は頬を桃色に染めて眺める。
そういえば、と小夜は再び空を見上げた。
ちょうど朱里のいないときに、アールが話してくれた話を思い出したのだ。
『僕が朝早くに買い出しをしてるとき、よく朱里くんを見かけたよ。いろんな人に声かけててね。今思えば、小夜様を必死に探してたんだろうね、ずっと』
それを聞いたとき、小夜は涙が出そうになった。
置いていかれたのだと思った自分を心から恥じた。
ずっと、朱里は自分を待っていてくれたのだ。
自分の帰る場所はいつもすぐ側にあった。
前方で息をついて止まっている朱里の背中が、ひどく愛しく感じられた。
小夜はたまらず駆け出す。
そのまま両手を広げて朱里の背中に力いっぱい抱きついた。
「うわっ!なんだよ突然!?」
いきなりの体当たりに驚いて振り返ろうとする朱里だが、その胸にがっしり回された細い腕はほどけない。
小夜は桃色の頬を広い背中に押しつけた。
ドキドキと朱里の心臓の鼓動が小夜にも伝わってくる。
それを感じて彼女はそっと目を閉じささやいた。
「…ただいま、朱里さん」
やっと戻ってきた。
私の場所に。
少しためらう気配があって、その後小夜の手に朱里の手が重ねられた。
「…おかえり、小夜」
そっと紡がれた言葉は、草原の緑が奏でる風の音とともに、秋空にふわりと溶けていったのだった。
The Treasure Hunter
世界の中の白 -完-
06.9.15 幸
世界の中の白 -完-
06.9.15 幸