* * * *



「きっとアールにも見つかります、自分の道が」

笑顔で言う小夜を朱里がじと目で見る。

「…じゃあお前の道はどこなわけ?」

「え?朱里さんと一緒に歩いている道ですよ」

「あいつと一緒の道じゃなくて?」

見上げた朱里の顔はなぜか不機嫌だ。
小夜は首をかしげた。

「朱里さん?どうかなさったんですか?」

「べつに。ただあいつと話してるときのお前、やたら楽しそうだったなと思っただけだよ。デコチュー2回もされてさ」

言って朱里はすたすた歩みを速める。

それを慌てて追いかけながら、小夜はあれ?と思った。


「どうしておでこにキスされたの知ってるんですか?一度目は私とアールしかいなかったのに」

「あぁ?そんなもん忍……な、なんでもねぇ」

「…もしかしてどこかに隠れていらっしゃったんですか?」

ギクッと効果音が聞こえてきそうなほど、朱里の肩が反応する。

「…私が寝てるときから…?じゃあ、あの夢も…」

そっと自分の唇に指をあてた小夜を見て、朱里の顔が急激に赤く染まった。

「ちっちが…違う!!」

もはや茹でダコ状態だ。
明らかにその顔は、何かありましたと言わんばかりに動揺している。

じっと自分を見つめる小夜の視線に耐えかねて、たまらず朱里は一人駆け出した。

その後ろ姿を小夜は頬を桃色に染めて眺める。


そういえば、と小夜は再び空を見上げた。

ちょうど朱里のいないときに、アールが話してくれた話を思い出したのだ。



『僕が朝早くに買い出しをしてるとき、よく朱里くんを見かけたよ。いろんな人に声かけててね。今思えば、小夜様を必死に探してたんだろうね、ずっと』


それを聞いたとき、小夜は涙が出そうになった。

置いていかれたのだと思った自分を心から恥じた。



ずっと、朱里は自分を待っていてくれたのだ。

自分の帰る場所はいつもすぐ側にあった。



前方で息をついて止まっている朱里の背中が、ひどく愛しく感じられた。

小夜はたまらず駆け出す。

そのまま両手を広げて朱里の背中に力いっぱい抱きついた。

「うわっ!なんだよ突然!?」

いきなりの体当たりに驚いて振り返ろうとする朱里だが、その胸にがっしり回された細い腕はほどけない。

小夜は桃色の頬を広い背中に押しつけた。

ドキドキと朱里の心臓の鼓動が小夜にも伝わってくる。

それを感じて彼女はそっと目を閉じささやいた。


「…ただいま、朱里さん」


やっと戻ってきた。
私の場所に。


少しためらう気配があって、その後小夜の手に朱里の手が重ねられた。


「…おかえり、小夜」




そっと紡がれた言葉は、草原の緑が奏でる風の音とともに、秋空にふわりと溶けていったのだった。



The Treasure Hunter
世界の中の白 -完-
06.9.15 幸



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